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グローバルブランド「獺祭」はいかに誕生したのか?

続いて旭酒造の桜井社長が登壇、プレゼンテーションを行った後、石田コーポレート部門代表パートナーとともに、獺祭が世界中で愛飲されるに至った経緯や苦労を語り合った。


──当初は地方でうまくいかなかった獺祭と同様に、世界で成功しているスタートアップ企業も「国内に需要がなかったから海外を目指す必要があった」と言っています。獺祭も、海外に出ざるを得ない事情があったんですね。

桜井:単純に山口県でダメで、東京に来てうまくいったので、外に出るというハードルが非常に低かったんです。そこからさらに「東京も海外も変わらないだろう」と会社のマインドが変わりました。



──日本での成功と同じように海外でもうまくいったのでしょうか。

桜井:実は、私は海外進出反対派でした。当時の社長に無理やり担当者にされ、「まじかよ」という感じでしたが、だんだんと海外市場にも可能性があるなと感じました。

最初は、現地の卸業者と一緒に売っていったのですが、うまく行きませんでした。当時は日本でも獺祭を知っている人は少ないくらい。安くない、瓶も普通、おかしな名前。総スカンでした。そこでマメに営業を回る心が折れてしまったんですね。

それで当時扱っている何軒かのお店に集中して売るようにしたのですが、それが結果的にうまくいきました。お客様が「獺祭ってうまいじゃん」と思ってくれて、それをいろんなお店に言ってくれたんです。今振り返ると、商品力でリピーターを掴むというのは、日本と同じ成功パターンだったなと思います。

──マーケの手法よりも品質にこだわり、インフルエンサーが広めてくれた、と。運が良かったように聞こえてしまいますが、そんなことないですよね?

石田:桜井さんは謙虚な方ですから(笑)。弁護士として横で見ていて、桜井さんたちにとって、「失敗」ってないような気がするんです。仮に最初は失敗に見えることでも、全てが結局次の成功のための材料になっていて、「不屈の魂」という感じがします。

桜井:今年7月の西日本豪雨による洪水で、会社の前が川になり、70センチの浸水がありました。酒蔵の電気も3日間止まって、毎日0.1度刻みで調整している発酵中のお酒の温度が3、4度パーンと上がっちゃった。タンク150本分、瓶57、8万本分くらいがダメになったんですが、それをリカバリーするという経験ができました。いろんな文献を読み、発酵途中の失敗のリカバリー方法を研究するきっかけになりました。

結果的に、通常、獺祭としては売れないものを「獺祭 島耕作」という復興支援商品として販売できました。失敗を経験として捉えるようになり、「どうにかなるじゃん」という、のん気で前向きに切り替える企業文化が活きました。

──日本の成功法則を海外に持っていくことはできるのでしょうか。

石田:人間はどうしても「我々の当たり前は別の社会でも本当にそうなのか」という問題意識が飛んでしまう。それが通用しない部分もあるので、まず自分がどんな部分にとらわれているのかと見極めることが大事な気がします。それが分かればトライアンドエラーはやりやすい。

そこから微修正をしながら良い方向に向かっていくというのが、海外展開のあるべき姿だと思います。そのためには「A〜Eのうち、B〜Dは日本にしか通じない。EFはフランスでは通じるがアメリカ西海岸ではダメ」というように、リスクを棚卸しし、細分化する作業が必要です。

──桜井社長はどうでしょう。

桜井:個人的には、あまり国内と海外での違いは感じないんです。お酒は嗜好品なので、飲む人はそんなに変わらない。でもそこに関わる人については、だいぶ感覚が違うなと思います。例えば、フランスでは酒はシャンパンやワインと同じブランド品なので、マーケティング費用にこれだけ使おうというような売り方の違いや、国民性の違いがありますね。



──現地のパートナーにはどこまで権限を委譲しているのでしょうか。

桜井:とにかく獺祭は、日本と同じように「美味しくしてお客さんに届くようにする」と考えているので、現地に想いを伝え、最適化してもらっていました。ただ最近、現地にとっての「最適化」と私たちにとっての「最適化」が違う部分があるなと気づきました。

具体的に例を挙げると、今までは(酒を運ぶ輸送コンテナの温度)酒を保存する環境を、ワインと同じ13度くらいにして(いた)いるところが多かったのですが、日本酒にとってはもっと低い方がいいんです。だから最近は、「その方が長持ちし、売り上げも上がるよ」と。そういうやりとりを現地としています。

石田:獺祭って、なんかかっこいいんですよね。女性や若者にも非常に人気で、世界でもブランドイメージがかっこ良く見えるみたいなんです。そのストーリー性はどうやって築いたのですか。

桜井:ストーリーの大きな部分が、品質なんです。それを追い求めた結果が、機能美としてかっこいいとなったんです。

東京コレクションにも、美味しいアルコールとして獺祭が呼ばれて、かっこいい市場に引っ張ってもらえるようになったんです。美味しいものを作るためにはなんでもやるという企業文化。それをかっこいい部分として取り上げてもらえているのかなと思います。

──品質へのがこだわりがブランディングにもつながるということですね。

桜井:お客様は、嗜好品に対しては正直です。1本目はマーケティング手法で飲んでくれても、2本目は美味しくないと飲んでくれない。美味しければ、深く知ろうと思ってもらえるんです。

文/鷲見洋之 写真/鈴木久美子(GEKKO)

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