「実家のキッチンには缶入りのコーヒー粉があった。昔のトレンドが復活したということだ」と創業者のジェームス・フリーマンは話す。時代に逆行するかのようなこの動きは、一体何を意味するのか?
コーヒー豆やコーヒー粉の缶と聞いて多くの人が思い浮かべるのは、プラスチックのふたがついたMJBやフォルジャーの巨大な缶だろう。白地に青いロゴが入ったブルーボトルのアルミ缶は、6オンス(170g)の小さなサイズで、ポリプロピレン(PP)製のふたがついている。
この新容器は「お金のかかる実験だ」とフリーマンは言う。焙煎したてのコーヒー豆が売りの同社にとって、できるだけ新鮮な状態で消費者に届けることは重大な課題である。フリーマンによると、従来の袋入りのコーヒー豆は酸素に触れているため約2週間で風味が落ちるが、密封缶入りの豆は最長で4ヶ月、鮮度を保つことができる。ただし、アルミ缶に密封するために必要な設備や人的コストは、袋包装の1.3倍以上に上る。
従来の袋の内側にラミネート加工されているポリ乳酸は、トウモロコシを主な原料とし、生分解が可能だ。完全に土に還るまでには5年から10年かかるものの、豆を長持ちさせる素材の中では最もエコな素材として、他の多くのサードウェーブコーヒー焙煎業者も使用している。しかし、フリーマンは「これを使い続けると、問題の多いトウモロコシ産業をサポートすることになってしまう」と語る。
一方でアルミニウムも、原料となるボーキサイトの採掘が環境破壊を引き起こすとして世界各地で問題視されている。ただし、リサイクルのシステムが既に確立されており、アルミニウム協会によると、アルミニウム製品の大半は7割程度のリサイクル素材を含んでいるという。「環境に負荷をかけない消費はない」とフリーマンは言う。
ゴミを減らす狙いも
コーヒー豆の容器以外についても、フリーマンは長年、環境負荷を抑える方法を模索してきた。店舗から出るゴミをゼロにするために、ゴミ箱を撤去しようと考えたこともある。「でもお客が手元のゴミを捨てたくなったら? そのまま持ち帰って、他所で捨てろと言うわけにはいかない」
コーヒー豆そのものの廃棄も大きな問題だ。フリーマンによると、コーヒー業界では鮮度が低いという理由で大量の豆が廃棄されているという。ブルーボトルでは最高鮮度ではなくなった豆は寄付するほか、コンポスト処理している。週に3800kg以上のコーヒー豆を売り上げる同社が、長期保存が可能な缶を導入した背景には、廃棄分を減らす狙いもあるようだ。
ブルーボトルの缶入りコーヒー豆は6オンス(170g)が10ドルと決して安くない。栽培から生産処理、焙煎まで多くの人の手がかけられ、高品質で素晴らしい風味特性を持つスペシャルティコーヒーは今後、クラフトビールやワインと同様のカテゴリーになるとフリーマンは考えている。
現状はといえば、「買ったその場で缶を開封し、店頭のグラインダーで豆を挽くお客がいるが、グラインダーには古い残りカスがついている」。消費者がスペシャルティコーヒーの真価を知るまでには、さらなる啓蒙が必要になりそうだ。