ビジネス全体を見直す
多くの日本企業はインターネット以前の「機械+電気」のプロダクトで戦っています。この領域では4P(Price, Place, Product, Promotion)で勝負が決まっていました。より良いものを正しいチャネルで、適正な価格で販売し、適切にプロモーションされるものが売れるわけです。4つの要素を全て取り組むからこそ、製品が世の中で受け入れられます。
一方、インターネット以降の時代では、体験(Experience)を加えて5Pと言う人も増えてきました。以前は量販店に行って製品を買ってくれたら、そこで終わりでした。従来のマーケティング手法は衝動的な買い物をあおってきた面もあると思います。
でも私たちがネットフリックスやアマゾンプライムを使うときは、レジで買うのではなく毎月定額料金を支払うわけです。ユーザーは興味がなくなれば、別のサービスに乗り換えますよね。つまり、インターネット以降のプロダクトやサービスは使い続けられてこそ意味があります。
企業と顧客の関係が、売買という一過性の瞬間的なものではなく、延々と継続される関係に変化したわけです。このようなタイプのビジネスでは、常にプロダクトを磨き続けなくてはならないし、ユーザーが困った時には随時解決しなければならない。
インターネット以前のビジネスが瞬間的な「恋愛型」だとすると、インターネット以降は、ユーザーと企業が長い時間を共に過ごす「結婚型」のビジネスとも表現できます。幸せな結婚生活を継続するためには、恋愛とは違う質の努力が必要なわけです。ユーザー視点をダイレクトに取り込むデザイン思考は、この結婚型のビジネスに向いているのです。
第四次産業革命時代のプロダクトについては、デザイン導入の効果が出やすい。もっと踏み込んで言えば、第四次産業革命時代においては、デザインは必要条件のひとつになってきています。ソニーやパナソニック、トヨタ自動車などの日本企業も第四次産業革命時代のプロダクトやサービスにジャンプしようとしています。
このように、デジタルとハードウェアをつなげて新しいフィールドに飛ぼうとしている企業にとっては、デザインへの注力は死活問題に関わってくる。グーグルやアップル、エアビーアンドビーなどではデザインがパワーを持ち、企業内でも優先的に扱われています。
これからはデザイン責任者が経営層にいるかがひとつの指標になります。CDO(チーフデザインオフィサー)やCXO(チーフエクスペリエンスオフィサー)を設置するのがスタートアップではひとつの流れになりつつあります。
一方で、無印良品やユニクロ、サントリーなど大企業から老舗の虎屋までブランドのある会社は、すでにデザイン駆動型のビジネスに昔から取り組んでおり「何を今更!」と言う話でしょう。デザインが企業経営のメインストリームの一翼を担う動きが今、日本の産業界で始まっています。
田川欣哉◎Takram代表。ハードウェア、ソフトウェア、ブランド構築などに精通するデザインエンジニア。英国ロイヤル・カレッジ・オブ・アート客員教授・名誉フェロー。