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ファッション、メンズスタイル、ラグジュリー


ちなみに、チャペルで公開された古代・現代のアートのなかに、中世の恋愛物語「アベラールとエロイーズ」が実在したことを示す聖遺物箱があった。箱に保管されていたのは、主人公たちの骨の一部である。この国宝的遺物は、ケリングの支援により、パリにある国立高等美術学校コレクションの仲間入りを果たすことになる。

このように「アートと文化、歴史を保護し、その成果を周囲の人々に還元することは企業の務めの一部」とピノー氏は語る。「ジェネラス・キャピタリズム(気前よき資本主義)」によって、周囲の文化的な環境に貢献し、ひるがえって自社も恩恵を受ける。そのような資本主義こそがこれからの時代に生き残ることができるのだ、と。

ラグジュアリーとは持続性そのもの

歴史的価値のある環境を保護し、その環境から恩恵を受けるという姿勢は、ケリングが社是としている持続可能性(サステナビリティ)ともつながってくるわけであるが、ここで、私のファッション史の研究者としての疑問が持ち上がる。

モードのサイクルは古いものを捨てさせ、最新のものを買わせるという、いわば反・持続性のサイクルで回ってきた。このサイクルがあるかぎり、モードと持続可能性の両立は難しいように感じるのだが、その点をどのように考えているのだろうか? ピノー会長は創造性と企業文化という、ふたつの側面から持続可能性について答えてくれた。

「まず、コレクションに関してですが、他のブランドでは確かにシーズンごとに全く新しいストーリーが提供されますね。しかし、ケリングでは、顧客にもっと長期的な、クリエイティブな旅をしてもらおうと心掛けています。コレクションは複数年かけて表現されるものであって、ひとつのコレクションは本の一章のようなものとみなします。ゆえに、3年後であってもコレクションは有効となり、持続性が保たれるわけです」

モードと持続可能性の矛盾を解決する、なんという知的な発想なのだろうか。

「また、サステナビリティは企業文化そのものとなっています。企業は、自ら身を置く環境、コミュティとつながっていなくてはなりません。そしてサステナビリティは、品質の新しい定義であり、ラグジュアリーとは不可分です。これは、完璧なものに近づくことに貢献する要素であって、対立するものではありません」

ケリングという言葉は、グループのビジネスの発祥の地、ブルターニュ地方で家や健康を意味する単語に現在進行形のingを合わせた造語である。Caring (関心をもって大切に扱う)という意味もかけている。社員、顧客、地球環境を持続的に大切に扱っていくという意志表明ともとれる。はたして将来は、どのような会社を目指すのだろうか?

「世界で最も影響力のあるラグジュアリーグループになりたいですね。リスクをとった創造性を発揮して、その影響力を他の領域にももたらしていきたい。また、持続可能性の模範例となり、ソリューションを提供していきたい。このふたつの責任を果たすことによって財務的な成功がもたらされるのが理想です」


フランソワ=アンリ・ピノー◎ケリンググループ会長兼CEO1962年 フランス、レンヌにて、ケリンググループの前身であったPPR創設者フランソワ・ピノーの息子として生まれる。HEC経営大学院を卒業後、87年ピノーグループに入社。00年、同社の副最高経営責任者に就任し、デジタル戦略を担当。2005年より現職(ケリング グループ会長兼CEO)。

文=中野香織 構成=秋山 都

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