イスラエルのタルピオットに学ぶ、テック系人材育成術

タルピオットのプログラムはヘブライ大学で行われる(shutterstock.com)


イノベーションという言葉は3年目から

タルピオットでは、1年目は学び方や分析力を高めること、1年目はハンズオンで作ることと、常に疑問を発するモノの見方を身につけること、3年目はイノベーションとアカデミックリサーチを学ぶことを目的にしています。イノベーションという言葉を使い始めるのは3年目になってから。最初の2年はあえてこの言葉を使わないそうです。



2年目になると、年数回のプロジェクトを通じて、与えられたテーマに対して自分たちで解決策を編み出すことを学びます。

たとえば「宇宙で操作しやすい入力デバイスの製作」といったテーマに対し、1000ドルのプロジェクト費用がチームに与えられ、競い合いながら実際に製品を開発するのです。各プロジェクトには発注者がおり、その人はなぜそれが欲しいのか、どういうものなら使いやすいかといった、顧客視点で考える練習にもなります。成果物が優れていれば、軍に採用される場合もあります。

実際の顧客を想定して予算と期限内にチームで作り出すプロジェクトは、ミニ起業と同じ経験です。兵役終了後に躊躇せず起業できるのも、これらの体験があってのことです。

そして3年目ではじめて、イノベーションについて学びます。すでにプロジェクトで経験してきたことに照らし合わせて考えられるため、より深い学びにつながるというわけです。

人間的な成長を促すプログラム設計

タルピオットでは、選抜のときから内省力や自己評価力の高低をみており、プログラムに入った後は、ソシオメトリーというヤコブ・L・モレノによって開発された集団分析の技法を用いて、集団の中での人間関係の特性を測り、フィードバックし、自己成長につなげるように工夫をしています。

過剰でも過少でもなく、自分のことを適切に評価できる力。足りないものを補っていくために自分ときちんと向き合えるスキル。そして、タフな環境でも学びの成果を出せる精神力。

人間的な成長を促すために、1人1人にじっくり寄り添い、共に学ぶ仲間やインストラクター、司令官など関係者全員で評価し、不足する部分を強化していく。こうしたカスタマイズしたプログラムを作成することで、成長をサポートするのです。

日本はイスラエルと同じように天然資源が少なく、少子高齢化に伴い、人材確保が難しくなるなか、国や企業の成長の基盤は人にあることに異論は出ないでしょう。あわせて、企業の成長が鈍化する状況で、イノベーションが不可欠といわれて久しいですが、あまり育っていないのが現状です。

イスラエルのように、イノベーション人材育成に、時間とお金をしっかりとかけること。「急がば回れ」です。10年単位の視点を持った人材育成が必要なのではないでしょうか。

連載:「グローバル思考」の伸ばし方
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文=秋山ゆかり

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