「ブランディング=ロゴ制作じゃない」電子国家エストニアを構築したデザインプロセス

左からアラリ、ヤーン、リーシ


ビジュアルはコアメッセージを浸透させるための「手段」

これらのコアメッセージに沿ってデザイン制作を進めたBrand Estoniaチームだったが、更に一歩踏み込んだサービスの提供に踏み切る。それがToolbox Estoniaだ。

Toolbox Estoniaは、同国の写真素材や動画素材、オリジナルで制作したアイコン、フォント、プレゼンテーションなどのビジュアルを無償で公開しているプラットフォーム。エストニアそのものや、同国のビジネス・文化を国内外に紹介する目的であれば、世界中の誰もが利用可能だ。

「ブランディングの本質はコアメッセージの策定にあるけれど、やはり写真、動画、そしてロゴやアイコンなどのビジュアルが持つ影響力は計り知れない。コアメッセージを最大限に浸透させる手段として、ぼくらはToolbox Estoniaというプラットフォームを立ち上げることを決めたんだ」とアラリはその決断の背景を明かす。

同プラットフォーム上では、広報物を制作するにあたってのガイドラインも整備されており、発信するメッセージのストーリーや、産業ごとのスローガン、そして色、レイアウトなどに関するトーン&マナーが細かく定義されている。



「東京でエストニア関連のイベントを開催するとしたら、Ainoフォント(e-Residencyなどで使用されているエストニア公式フォント)やフォトストックにある写真素材を使ってパンフレットを作ることもできる」とリーシ。

ヤーンは「エストニアのビジネスマンが、海外でプレゼンテーションをする際に、統一されたフォーマット、そしてストーリーで自国のことを伝えることができる。クリアで統一されたメッセージを策定できたことは大きい」と一定の成果を確信している。

ただし、Toolbox Estoniaのリリースは「あくまでもスタート地点」だと彼らは言う。彼ら自身は、Toolbox Estoniaを今後15年続くプラットフォームとして捉えており、これからの挑戦として「経済に与えるインパクトを正確に測定し、更なるエストニアブランディングの浸透に注力したい」という。

広報物の制作に必要な「道具箱」と「取扱説明書」を、政府自ら提供することで、本気で国単位のブランドを形成しようと取り組んでいるエストニア。Brand Estoniaのメンバーと話していると、表面的なロゴやデザインを制定するだけでなく、コアメッセージに基づいた根本的なブランディングを展開する重要性を、意識せずにはいられなかった。

前回と今回にわたって紹介した電子国家エストニアの「国のブランディング」戦略。次回は、エストニア政府e-Residencyチームに取材を行い、世界初の電子国民プログラムを提供する彼らの素顔、そして大統領自らが発表したe-Residency2.0構想の裏側に迫る。

連載:日本人が知らないエストニアのいま
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文=齋藤 アレックス剛太

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