名は体をつくる? 独断で選ぶ2018年ネーミング大賞

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さらにドワンゴとピクシブが主催する「ネット流行語100 2018」の大賞は、社会現象となったテレビアニメ「ポプテピピック」。精進足りぬ不肖者はつゆ知らず、「社会現象」に1人取り残された気分に呆然とし、急ぎキャッチアップした次第だ。

大川ぶくぶさんによる4コマ漫画が原作らしく、オリジナルを読めるサイトに行き着いたところ、いきなりウィリアム・シェイクスピアの箴言「暗闇は無く、無知があるのみ」を目にした(すみません、無知でした)。 いざ「ポプテピピック」の原作やアニメに触れてみると、古今東西さまざまなコンテンツを下敷きにしたエンターテイメントとわかった。確かに、前提となる参照元に対して「無知」だと笑えない。

「ポプテピピック」とは発話すると心地はよいが、覚えにくいのが玉に瑕。とはいえ、「ピ」を1つ抜かして「ポプテピック」と検索しても同じ結果が出て来そうな字面力がある。今年原作者が逝去された「ちびまる子ちゃん」が、平成の象徴と惜しまれたことを踏まえると、この「ポプテピピック」は次の時代を代表する漫画アニメになるかもしれない。

福岡キャニコムの戦略的ネーミング

さてここまで来て「ネーミング大賞」というのはないのだろうかと検索してみて、発見した。その名のままの「読者が選ぶネーミング大賞」。日刊工業新聞社主催でなんと第28回を数えていた。しかも発表時期は毎年3月。またしても不勉強を恥じつつ、直近の受賞作を調べた。

大賞は、「かんたん保険シリーズ ライト! By明治安田生命」。わかりやすいうえに、「ライト!」の響きが良いが、「By明治安田生命」と付けた異物感が新鮮だ。

ビジネス部門第1位は「荒野の用心棒ジョージ」。前モデル「ブッシュカッター・ジョージ」の後継機だという。受賞したのは、福岡県に拠点を置く、農業・林業用などの動力運搬車製造メーカー、キャニコム。この会社、これまでにも「草刈機まさお」「伝道よしみ」をはじめ、「北国の春…お」や「男前刈清(おとこまえがりきよし)」「ひらりクリーントン」など、包行均会長の決めるからこそ可能な、ユニークなネーミングを世に問うてきた。

どの商品名も、「ポプテピピック」的なアプローチで、すでによく知られた名称に被せ、逆にそれが妙なオリジナリティを醸し出している。一次産業の業務機器に著名人の名前の組み合わせが生む、意味の不協和音(受け手を「何のことだろう?」と誘い込む力)が大きなインパクトを生み続けている。

師走にあたり、話題となった新語総ざらえの結果、ネーミングを職務にしてきた身としては、あらためて思うところがあった。ネーミングにあたっては、音の響きが良いかどうか、さらに見た目の字面が良いかどうかが大事だ。しかし、同時に意味の不協和音を残すネーミングでないと、検索や口コミの行動にまで広がらない。

キャニコムのホームページを見ると、ネーミングに合った製品デザインを実現する「デザミング部」という部署があるそうだ。名は体を表す。いや、名をもって体をつくる。このキャニコムの着想にこそ大賞を差し上げたい。

連載:ネーミングが世界をつくる
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文=田中宏和

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