社会が直面する「睡眠の危機」 解決策は思うより簡単

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ニュースサイト「ハフポスト」創業者のアリアナ・ハフィントンが2010年、初めて睡眠について語り始めたことは、革命的とも言える出来事だった。ハフィントンは2007年に自身に起きた燃え尽き経験から、人々はもっと睡眠のことを真剣に考えるべきだと提案した。

ハフィントンが呼び掛けたのは、働き過ぎの役員ら(やそれ以外の人々)がパフォーマンス改善のためにもっと休みを取ることだった。ハフィントンはその後、健康情報サイト「スライブ・グローバル(Thrive Global)」を設立し、書籍『The Sleep Revolution(睡眠革命)』を執筆した。

そして現在、私たちはいまだに忙しく、ストレス過多で働き過ぎの生活を送っている。

非営利団体(NPO)スリープ・カウンスル(The Sleep Council)がまとめた「英国睡眠報告書(The Great British Bedtime Report)」によると、ほぼ3分の1の人が大半の夜できちんとした睡眠をとれずにいる。また同報告書がまとめる「眠れない理由」のランキングでは、「ストレスと心配事」が毎年、上位3位以内に入っている。

米電気自動車大手テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は先日、プレッシャーに「ついていく」ことに苦闘していることを明らかにした。この告白は、成功した経営者は誰しもが健やかな精神を保っていると思っていた人の認識を若干変えたかもしれない。

それでも、仕事上のストレスが増大し続ける人にとって、睡眠は第一の解決策ではないようだ。ハフィントンはマスクに宛てた公開書簡で、睡眠を取るよう提案したが、マスクはこれに対するツイートで、睡眠をとるという選択肢は自分にはないと主張した。

各国政府は長年にわたり、精神保健と健康に関する議論において睡眠を重視してきており、英公衆衛生庁(PHE)は職場向けの「健康的な睡眠ツールキット(Healthy Sleep Toolkit)」さえ作っている。睡眠不足は職場での生産性低下の要因とされており、最高のパフォーマンスが発揮できない状態ではストレスが高まるのは想像に難くない。こうした状況で、睡眠が選択肢にはないと考えているのがマスクCEOだけとは考えにくい。

睡眠から得られるメリットがあるにもかかわらず、私たちはいまだに睡眠を取っていない。

英慈善団体の精神保健財団(Mental Health Foundation)が発表した報告書「Sleep Matters(睡眠は重要)」は、「睡眠は、私たちの体にとって食事・水分補給・呼吸と同じくらい重要で、精神的・身体的な健康を保つのに欠かせない。睡眠は体だけでなく、脳の補修と回復を助ける効果もある」と指摘している。
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編集=遠藤宗生

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