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一方、日産側がフランス政府により、経営に不当に干渉されたと判断した場合は独自の判断でルノー株を買い増せる条項が追加された。日本の会社法によれば、日産が、ルノー株を25%まで買い増すと、ルノーの日産への議決権がなくなるので、これは事実上の買収防衛策になる「伝家の宝刀」となった。

日産(経営陣、従業員)のなかには、ルノーと日産の関係は、不平等だという意識が強い。その理由は、技術的にも、販売台数でも、日産はルノーを上回るにもかかわらず、利益の半分近くを配当で吸い上げられる、というものである。しかも、売上高、販売台数で劣るルノーの従業員数は、日産をはるかに上回る。従業員一人あたりの販売台数、売上高ともに、ルノーは日産の半分しかない。パテント(特許)の出願数でも、日産はルノーの2倍を超えている。

皮肉なことに、首切り、工場閉鎖などの荒療治で日産を立て直したゴーン元会長は、同様の荒療治をルノーに対しては出来ていない。その結果、日産の配当(の一部で)、ルノーの従業員の雇用を守っている。それはフランス政府の雇用維持目的にもかなっている。

フランスではいまだに国有企業が多い。日本の70年代のようだ。フランス国鉄、郵便事業、電力会社などは国営である。エールフランスKLMにも大きな資本が入っている。

18年までフランス政府のルノーによる日産支配の恒久化要求と、日産の独立性希望の間のバランスをとっていたゴーン氏の退場によって、今後はフランス政府と日産の利害の衝突が起きる可能性が高い。これは、すこし誇張していえば、国境を越えた国家が社会政策を国有企業に押し付ける「フランス型社会主義」と民間活力を最大限に生かす資本主義の闘いである。


伊藤隆敏◎コロンビア大学教授・政策研究大学院大学特別教授。一橋大学経済学部卒業、ハーバード大学経済学博士(Ph.D取得)。1991年一橋大学教授、2002年~14年東京大学教授。近著に『公共政策入門―ミクロ経済学的アプローチ』(日本評論社)。

文=伊藤隆敏

VOL.13

大学入試の「公平性と多様性」

VOL.15

日米欧で瓦解する「中央銀行の独立性」

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