全国営業会議に出席した私は、営業責任者による複雑な戦略プランの説明を聞いていた。その戦略は企業幹部たちが作るべく訓練されてきた内容で、非常に綿密ながらも、成功のためには一貫した精度が必要とされるものだった。幹部以外の人にとっては、複雑で混乱するような内容だ。会議後、会社の業績は下がり続けた。
翌年、新たな営業責任者が就任した。私は、年次会議での新責任者の発言に驚いた。「ブランドXがうまくいけば、ビジネスもうまくいく……ブランドXがうまくいけば、ビジネスもうまくいく」と何度も繰り返したのだ。彼は1日をかけ、現場のリーダーたちに対してひとつの考えを植え付けた。最も重要なひとつのブランドに集中すれば、他はそれに付いてくる、と。
この複雑さとシンプルさの対比は、私に強烈な印象を残した。最初のプランは非常にスマートで凝ったものだったが、その複雑さにより、一貫性のある形でうまく実行することはほぼ不可能だった。
第2のプランは、シンプルさをもって成功を担保するという点で天才的だった。誰もが向かうべき方向を理解し、ひとつのタスクに注力することで、プランが組織内に徹底された。このプランのおかげで営業部門は成長路線へ戻った。
経営幹部が取り組む課題は複雑だ。しかしそれを組織全体に伝え浸透させるためには、シンプルにする必要がある。
グローバルブランド戦略立案企業のシーゲルゲール(Siegel+Gale)が実施した最近の調査では、シンプルな職場は従業員のエンゲージメントを高め、業績の向上につながるという結果が出ている。以下に、その調査結果から得られた知見と、最高マーケティング責任者(CMO)がそれを組織の業績に生かす方法を紹介する。
1. 自分の職場が本当にシンプルだと感じている従業員は5人に1人のみ。ほとんどの従業員は、自分の働く環境は複雑過ぎると思っている。
2. 明確なコミュニケーションはシンプルさを促進する。トップが組織の目的、価値観、業績目標を明確に伝えている企業は、シンプルさを増す傾向にある。シンプルな職場では、従業員の役割がいかに顧客との関係、さらには業績に影響を与えるかが伝えられている。シンプルな職場は、心理的な安心感を促し、信頼関係や職場の能力を生む。
3. シンプルな職場では、イノベーションが生まれやすい。従業員の54%が、シンプルな組織の方が革新を起こしやすいと感じている。
4. シンプルな職場では、採用活動も楽になる。従業員の65%が、自分の職場での求人への応募を他者に勧める傾向にある。
5. シンプルな職場は、従業員の忠誠度に影響を与える。従業員の84%は現在の仕事に留まる予定で、95%は自社の経営陣を信頼する傾向にある。