ビジネス

2019.01.03

本質を維持しつつ変革する マツダのブレないクルマづくり

Goran Bogicevic / Shutterstock.com


三宅:藤原さんは、世の中の流れと逆を言い続けてきた方ですよね。でも、中には社内に「それ、本当かよ」って思う方もいると思うんですよ。そういう時は、どんなコミュニケーションを取っているんですか?

藤原:さっき言ったように、基本的には車が好きでマツダに入った人達なので、大きくズレることはあまりないです。でも、中にはそうでない人もいる。そういう時には「自分たちのサイズや立ち位置で生き延びるには、何をすべきか」を問い続ける。そして、自ら考えてもらうようにしてます。

三宅:そこにタイムラグがある気もするんです。10年後ぐらいに、「あぁ、藤原さんはこういうことを言っていたのか」みたいになる人もいるのかなと。

藤原:長期的な視点を持って、ブレずに進み続けることで、従業員もお客様も理解してくれると思ってます。一方、我々のやり方は短期的なビジネスの価値で判断されてしまうと、ものすごく厳しい。この道を歩んだからには、経営陣には忍耐しかない。耕して耕して、しっかりと栄養を蓄えて、長い間稲作ができるように、ということだと思います。

失敗と挫折を繰り返すことで得られたもの

三宅:「走る歓び」と「優れた環境性能」という、一見矛盾していることを追いかけることに対しては、どのように考えられているのですか?

藤原:矛盾や言い訳は、イノベーションのタネなんですよ。「あれがあるからできない」とか言うけど、それこそがイノベーションのフックなんだから。そこを潰したら、世の中がドッと変わる。

ずっと言われ続けてきたんですよ、「走りと環境性能は成立しない」って。そして我々も言い訳してた。でもその壁を崩す開発ができた時、初めて突破することができた。

言い訳したらそれでおしまい。でも、そこに変革のタネは転がっていると思いますよ。

三宅:SKYACTIV導入以降のマツダの実現力は非常に注目されているかと思うんですが、その前に仕込みの期間がある気がしていて。その時ってどんな感覚で過ごされていたんですか?


クルマの基本となる技術をすべてゼロから見直し開発されたSKYACTIV TECHNOLOGY。これまでの常識を壊し、世界一を追求するスピリットで望んだからこそ成せた技術革新と言っても過言ではない

藤原:入社してからバブルがはじけるまでの6~7年はひたすら勉強の時期。その間、自分は何も貢献できていない。

でも、チャンスをもらってドイツで4年間過ごすことになり、車文化が一番進んでる社会でドイツ人と仕事をして、色々な物事の考え方を教えてもらって、それらを吸収した。同時に自分たちの負けを強烈に感じました。そして、いつかは彼らに「やられた!」と言われるものづくりがしたいと思い、帰国したわけですよ。

そしてある車を開発するんだけど、全然うまくいかず、もう一回ドイツへ再勉強しに行くわけ。そこまでは、ひたすらインプットの時期だった。

それが一気に開花したのがSKYACTIV導入以降。だから、仕込みの期間はすごく長いよ。20年ぐらいあるんじゃないかな。でも、幸せ者ですよ。20年でそんな風にできてるんですから。

三宅:忍耐的に将来を見つめながら、努力を積み重ねてきたのですね。

藤原:やりたいという目標に向かう中で、壁にぶつかって失敗して、また立ち上がってを繰り返す。すると、ある時からスピードが上がっていく。何度も挫折し、失敗する。そしてその過程を積み重ねていけば、ある所から急激な加速ができようになるのではないでしょうか。

連載 : #醸し人
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監修=谷本有香 インタビュー=三宅紘一郎 校正=山花新菜 撮影=藤井さおり

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