マイクロソフトのプロダクトは、クラウドからOfficeまで、幅広い分野の金融サービス企業で利用されている。今回の提携によりマイクロソフトは、ZestFinanceのAIツールを、同社のAzureなどのクラウドサービスに導入する。
「ZestFinanceのAIテクノロジーは入出金や、詐欺行為の検出、アルゴリズムを用いたトレーディングなどの広範囲な分野で活用可能だ」と、マイクロソフトの金融サービス部門のバイスプレジデント、Ed Frandreyは述べた。
マイクロソフトがZestFinanceの技術に期待を寄せる理由の一つが、AIの導入現場で課題とされるexplainability(説明可能性)の問題を解決できる点だ。データサイエンティストや研究者は、非常に洗練されたAIモデルを金融機関向けに構築できるが、そのメカニズムが完全に説明できない限り導入は難しい。ブラックボックス化したテクノロジーは、厳格な規制下に置かれる金融機関では実用化できない。
米国のUSバンクのAI部門のDavid Berglundは次のように述べている。「銀行が先端的テクノロジーを導入できない理由は、説明可能性の問題があるからだ。与信を行う際にディープラーニングで正しい結果が得られるとしても、それだけでは実際の現場での活用は難しい」
ZestFinanceのCEOを務めるDoug Merrillによると、同社のテクノロジーはSHAPと呼ばれるオープンソース技術に由来するものだという。SHAPのベースとなったのは、ノーベル経済学賞を受賞した数学者のロイド・シャープレーが、1970年代に確立したゲーム理論だ。シャープレーの理論はAI研究者がアルゴリズムの決定の正しさを、透明性の高い方法で証明する根拠として用いられている。
金融機関は個人や企業に与信を与えるプロセスに、マシンラーニングを導入しようとしているが、ZestFinanceのテクノロジーであれば、AIが個別の判断を下した理由が、外部からも正しく理解できるという。
「当社のビジョンは、金融サービスの規制に適合し、リスクマネジメント上の要求に応えることだ」とMerrillは述べた。
ZestFinanceは既に他の大手企業の信頼も獲得している。2017年にフォードは自動車ローンの与信プロセスに、同社のテクノロジーを導入する提携を結んだ。さらに、2016年には中国のバイドゥが、ZestFinanceに3000万ドルを出資しており、当時の評価額はPitchbookのデータで2億5200万ドル(約280億円)とされている。バイドゥは、中国でのクレジット評価プロセスの改善のために出資を行っていた。
Merrillが掲げる究極のゴールは、ZestFinanceのテクノロジーで数十年も昔から変わらない与信モデルをアップグレードすることだ。「公正で透明性の高い与信プロセスを、全ての企業で利用可能にしたい」と彼は話した。