構築的イノベーション
成功した事業に合わせて組織された企業では、新たなイノベーションの導入もより困難になる。「アンダーカバー・エコノミスト」ことティム・ハーフォードはフィナンシャル・タイムズ紙の記事で、成功した企業は、新たなイノベーションによって求められる組織構造の変化に苦戦すると指摘している。
組織内のこうした惰性を最初に特定したのは、「構築的イノベーション」という言葉を生み出したハーバード大学のレベッカ・ヘンダーソンとキム・B・クラークの2教授だ。2人は、大事なのはそのイノベーションが画期的なのか、漸進的なのかという点ではなく、企業の現在の構造がイノベーションを吸収し、フルに活用できるかどうかであると論じた。企業の現構造に合った画期的イノベーションは成功の可能性が高くなる。反対に、現構造にそぐわない漸進的イノベーションは失敗しがちだ。
大半の企業が直面する問題は、現構造に合う画期的イノベーションがほとんどないことだ。画期的イノベーションは多くの場合、成功のためにこれまでとは違う新たなビジネスモデルを必要とする。歯車が狂い始めるのはこの点だ。大半の企業は現行のビジネスモデルを遂行する構造となっているため、違うビジネスモデルを利用するイノベーションを進めるには企業内の構造変化が必要とされる。
最終的にイノベーションに成功できるかどうかは、必要とされる変化の規模と、その変化を推進できるリーダーの意志にかかっている。これが、ゼロックスやコダックが抱えていた問題だ。両社には、リソースも革新的な新テクノロジーを開発する先見の明もあった。足りなかったのは、こうしたテクノロジーを市場に投入するための適切なビジネスモデルを実行する意欲や能力だ。
組織変化は困難
私は企業イノベーションの実践者として、組織を変化させることの困難さを、身をもって経験している。これが簡単だと言う人は、実際の経験がない人だけだ。変化が必要なのは心構えだけではない。今や多くのリーダーやマネジャーがイノベーションの必要性を理解している。難しいのは、継続的にイノベーションを成功させるための正しい構造とプロセスを導入することだ。
これは21世紀の企業経営陣にとって最大の挑戦だ。企業のリーダーは、革新的な新ビジネスモデルの開発を支援するため、現在の組織構造を積極的に変えなければならない。これは「言うは易し行うは難し」だ。