総務部長はトランスジェンダー 父として、女として/岡部 鈴(著)/文藝春秋
──岡部さんがその雑誌を読んでいなかったら、カミングアウトのきっかけも得られなかったということですよね。親会社の姿勢について、メディアを通じて知る、というのは、少しいびつな構造かもしれませんね。
それって、企業にとってはもったいないことだと思うんです。もっと社員に向けて直接、自分たちの姿勢を示すべき。そのことで、私のように救われる人もいるし、社員の働きやすさにつながるからです。
それから、企業のロイヤリティにもなりますよね。電通ダイバーシティ・ラボの「LGBT調査2015」によると、LGBT等(性的マイノリティ)当事者は約7.6%とされています。
数年前にこのような調査結果が出ていながらも、未だに日本は、欧米に比べてLGBT支援を発表する企業は数少ないのが残念だなと思います。
たとえば化粧品会社・LUSHジャパンのように、LGBT支援をHPなどで対外的に発信する企業は、LGBT等当事者と、それ以外の人々の支持をも得ることになる。人材の獲得にもつながりますし、働いている社員の誇りにもなる。
日本の企業は、これからもっと積極的に、性的少数者に対する姿勢を社内外に向けて発信していくといいのに、と思います。
──LGBT等当事者の人たちに対して、役員や上司の具体的な態度や、姿勢としては、どのように在るべきだと思いますか。
当たり前のことかもしれませんが、他の人と同じように普通に話すことです。私自身の体験から話すと、カミングアウト後、女性として社内で働くようになってからも社長が今まで通りに接してくれたことがとても印象的でした。
社内にお客様が来て写真を撮ることになったときにも、社長は当時まだ外見が女性としては未熟だった私を呼んで「岡部、シャッターを押してくれないか」と声をかけてくれたんですね。
お客様のいる場所にも当たり前のように私を呼んでくれた、というのが、とても嬉しかったです。
──企業に向けて、なにか具体的なアドバイスはありますか?
自分が総務部長だったから気づく点もあると思うのですが、たとえば、採用の際の会社の募集要項を変えてみてはどうでしょうか。
トランスジェンダーにとっては、応募書類の提出時から既に高いハードルが課せられています。履歴書の性別欄は戸籍上の性別でなくてもいいし、記入自体が任意だと、示すと共に、性的少数者を差別しないと要項に明記するんです。
これには、1円もかかりませんよね。でも、たったそれだけで救われる人がたくさんいるし、素晴らしいCSRになるはずです。
岡部 鈴(おかべ・りん)◎専門学校講師、プログラマーなどを経て、広告代理店に入社。IT部門等を経験後、総務部長となる。2012年、トランスジェンダーであることを社内でカミングアウトし、女性社員として働き始める。現在はファイナンス部の女性ディレクターとして勤務。18年、文藝春秋より『総務部長はトランスジェンダー』を上梓。2018年に「Forbes JAPAN WOMEN AWARD」編集部特別賞受賞。