──ご出身地であるミネソタ州セントルイスパーク市について書いた章もありますね。クリントン元大統領の選挙スローガン「大事なのは経済だよ、馬鹿だな」をもじった「大事なのはコミュニティだよ、馬鹿だな」という言葉が印象的です。コミュニティに注目した理由は?
すべてが加速するなか、唯一、人間が根を下ろせるのはコミュニティだからだ。コミュニティは、人々が触れ合うのに十分な緊密さと、必要な変革を起こすのに十分な大きさを兼ね備えている。現在、米国の国政は、党派政治でまひしている。一方、個々の世帯だけでは力が弱い。21世紀には、健全なコミュニティが最も有効な統治単位になる。
一方、「複合的な適応連合」を構築できないコミュニティもある。複合的な適応連合とは、(ミネソタ・ツインシティーズの地元経済促進連合体、イタスカ・プロジェクトに代表される)企業や篤志家、教育者、社会起業家が団結し、変革を進めるコミュニティだ。そうした地域は繁栄している。そうでないコミュニティの再生は、地域のリーダーたちにかかっている。
リスクを恐れない人々を受け入れる
──日本では、在留外国人の数が過去最多を記録しました。異なる価値観や宗教の人々が増えるなか、濃密な信頼の醸成は可能でしょうか。
移民を受け入れる伝統がない日本で移民が増えているのは、実に興味深いことだ。人口減や多様な人材の必要性を考えれば驚きに値しないが、歴史的な文化を考えると、容易ではないだろう。
外国人と信頼を築くには、時間はかかっても、日々彼らの文化を理解し、尊重するよう心がけることが必要だ。彼らも、日本文化を理解せねばならない。要は適切なバランスを見いだすことであり、リーダーシップがものを言う。
外国人を特定の地域に押しやり、孤立させてはいけない。彼らとの間に架け橋を築く一方で、彼らも、日本や日本文化との間に架け橋を築く必要がある。世界で何が起こっているのか、日本が世界で生き残るためにはどうすべきかを理解できるリーダーが求められている。
──移民を受け入れないなど、排他的な方針によって内部の信頼構築を目指す道もありうると思いますが、企業やコミュニティが排他的になることのリスクは?
どの国にとっても実に危険なことだが、特に人口減の日本ではそうだ。排他性のリスクは、「自然」に照らしてみてもわかる。たとえば、最も健全で回復力に富むエコシステムは単式農法ではなく、混作だ。多様性のあるエコシステムは、推進力にも富んでいる。リスクを恐れない人々を受け入れることで新規事業が促進されれば、競争力の点でも強みになる。イノベーションには、多様性や視点、アイデアが不可欠だ。
──未来から選ばれる企業の条件とは?
企業が健全なコミュニティづくりに貢献する意義を教えてください。
世界で何が起こっているか、何が可能なのかを知ることだ。それを考えると、3つの「加速」にたどり着く。(イタスカ・プロジェクトのように)企業が健全なコミュニティづくりに貢献すれば、企業の持続可能性も増す。
企業がコミュニティとつながれば、(経済成長など)コミュニティが強固になり、それが企業に還元される。企業活動はコミュニティに依拠しているため、コミュニティに無関心でいることはできない。
トーマス・フリードマン◎米ミネソタ州生まれ。オックスフォード大学現代中東研究で修士号取得後、UPI通信に入社。その後ニューヨーク・タイムズ紙に移り、ベイルート、エルサレム両支局長を歴任。テロ問題に関する執筆活動で2002年3度目のピュリツァー賞受賞。近著に『遅刻してくれて、ありがとう』上・下(邦訳・日本経済新聞出版社)。