最新テクノロジーを、ひとつのプロダクトとして統合した「BMW 7シリーズ」。建築家の石上純也が取り組む新プロジェクトは、古代遺跡のようなレストラン兼住宅。建築の真の新しさを問うことで導いた佇まいと、7シリーズの共通点とは?
前編はこちら>>>「さりげなくステッチが入っていたり、よく見ると素材が巧妙に切り替わっていたり、インテリアが調和を成している点に上品な印象を受けます」。そう話しながら「BMW 7シリーズ」のステアリングに手をかけるのは建築家の石上純也。
「クルマと建築を対比すると、建築では室内の家具と空間は分断されていますが、クルマは専用のシートがデザインされるなど、インテリアとエクステリアが密接な関係にある。7シリーズには、内も外もすべてが連続性の中に生まれた一体感にラグジュアリーを感じます」と続ける。
最新のテクノロジーを搭載していることは当然。それぞれが意味を持つ機能部品ながら全体の調和がとれているため、プロダクトとしてひとつの塊に見える。一見シンプルで落ち着いた印象の半面、細部の精緻な作り込みに目をやると上質さに気づく。石上はそこにラグジュアリーを感じたというわけだ。
パリにある現代美術館「カルティエ現代美術財団」で2018年9月まで開催された、石上の大規模個展。展示作品のひとつに、今まさに進行中のプロジェクトがあった。2019 年春に山口県宇部市にオープン予定のフレンチレストラン「ノエル」のための建築がそれだ。15年ほど前に石上がインテリアデザインを手がけたレストランのオーナーが、新たにレストラン兼住宅の設計を依頼してきたことからこのプロジェクトは始まったという。
石上は、「約15年前に手がけたインテリアは、とにかく新しく、現代的な雰囲気。モダンなレストランにしたいという依頼がありましたが、今回は時間の経過がフレンチのおいしさを醸し出すような、ある意味で古い建築を新たに造れないかと相談がありました。オーナーの彼も、以前とは建築や空間に対する考えが大きく変わったようです」と語る。
これを受けて、「古い雰囲気だけを出したハリボテみたいな建築では意味がない。それでは彼が思い描く、時間の経過を表現する空間にはならない」と考えた石上は、ひとつの答えに行き着いた。それは、敷地に巨大な穴を掘り、大量のコンクリートを流し込む。固まったらコンクリートの周囲の土を取り除く。すると、流し込んだコンクリートが、建築として立ち上がるというアイデアだ。その佇まいは、この場所に太古から存在していた古代遺跡のようでもある。
「時間の経過とは、建物の古さとは何か。それは、人工物が自然化していく過程のこと。風に吹かれ、雨に打たれ、少しずつ風化していく末に出来上がるものです。その過程を、建築として別の方法によって再現することができないかと考えました」と続ける。
大量のコンクリートは、朝から夕方まで15分おきにミキサー車を入れ替え続け、一気に流し込んだ。流し込みを分けて行えば、仕上がった際の色に違いが出てしまい、それが新たな建築であることの証明となってしまうからだ。地中には、場所ごと石が多かったり赤土や粘土質が含まれていたりと、同じ場所にありながら地質は少しずつ異なる。こうした地中の要素を、一気に流したコンクリートの外壁が写し取る。人の手が届かない偶然性を受け入れることが、建築に時間を超えた佇まいをもたらす手助けとなっている。
1000年前に造られたのか、それとも現代に造られたのか。完成時から古さも新しさも備えた、時間を超越した石上の作品。時間の概念を取り払って目指したのは、オーナーの価値観に応えることに加え、問題意識として常に向き合い続けてきた周囲の環境との調和、融合といった意図も多分に含まれる。
興味深いのは、古代遺跡を彷彿とさせる原始的な姿とは裏腹に、「現代の技術でしかなし得ない作業も多かった」という点。光測量を用いて図面と現場の位置を照合し、レーザーカットした窓ガラスをはめ込む予定だ。
ここにも、最新技術を搭載した7シリーズとの共通項がある。7シリーズは外から窺い知ることはできないが、カーボンやアルミなどをミックスしたカーボンコアボディを採用。扉を開けると、骨格部分にエンブレムが現れる。軽量かつ高いボディ剛性を備えた骨格によって、伸びやかでラグジュアリーさを携えた、長いホイールベースを実現している。
BMW 7シリーズは、カーボンコアボディを採用。カーボンとアルミ、スチールといった素材を使い分け、軽量化と高い剛性を併せ持つ車体の骨格を構成している。骨格の軽量かつ高い剛性によって、走行性能やハンドリング性能、車内の静粛性などの向上に貢献。ドライバーに情報を伝えるインパネは、あくまでドライバーオリエンテッド。使い勝手に加え、素材の選び方やシートに施したステッチまで、インテリアの一部としてのシンプルさを備え、全体と調和を成した。石上は「7シリーズは、最新技術をひけらかさない控えめなデザイン。建築や空間も、最先端のサッシや断熱技術といった技術的な価値を多く備えているだけでは、ラグジュアリーとはなりません」と語る。
目に見えない最新技術を宿しながらも手段に留め、一体感を備えたシンプルなデザイン。伝統と革新を掲げる7シリーズと石上の新作には、確かに共通点がある。
BMW 740d xDrive M Sport
3リッターの直列6気筒ディーゼルエンジンと、路面状況に応じて最適な制御を行うインテリジェント4WDシステム「xDrive」搭載。力強いトルクのクリーンディーゼルを高効率に活用し、あらゆる環境で静粛性の高い走りを実現するBMWのフラッグシップセダン。全長5110×全幅1900×全高1480mm。車両本体価格14,480,000円(消費税込み)。
古さと新しさが共存する地中から現れた最新建築
現在進行中の石上のプロジェクトが、2019年春、山口県宇部市にオープンするレストラン兼住宅。敷地に掘った巨大な穴にコンクリートを流し込んだ後、土を掘り出し、取り除くことで現れる建築だ。外壁に地層などを写し取り、地中から立ち上がった古代遺跡のような建造物は、完成時から古くも新しくもある。時間という概念を超越した佇まいを魅せるその姿に、石上は建築としての真の新しさや周囲の環境との調和を見出した。
いしがみ・じゅんや◎建築家。1974年神奈川県生まれ。東京藝術大学大学院美術研究科建築科修士課程修了。2004年石上純也建築設計事務所設立。日本建築学会賞や第12回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展金獅子賞など受賞多数。18年パリのカルティエ現代美術財団で、単独建築家として初の個展を開催。
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