ビジネス

2018.12.19 17:00

若きファッションデザイナーが「バイオ素材」で服をつくる理由 #NEXT_U30

スペキュラティヴ・ファッションデザイナー 川崎和也


着る人の幸福のためAIを利用する
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──今最も、興味のある「課題」はなんですか?

機械学習の技術。そして、環境問題です。環境問題はある種の流行として、ファッション業界でも度々取り上げられてきたトピックです。僕は環境問題とファッション、テクノロジーが結びつく瞬間がそう遠くない時に来ると思っています。

その考えを表現したひとつの作品が、WIRED CREATIVE HACK AWARD 2018で特別賞を受賞した「Algorithmic Couture(アルゴリズミック・クチュール)」です。この作品では、機械学習のアルゴリズムを用いて衣服作りを試みました。近年、ファッションの領域では「将来の流行を予測するため」に機械学習が使用されはじめています。しかし僕は、「着る人や社会の幸福のため」にもっとAIが貢献しうるのではないかと考えました。そこで、本作を通じて、機械学習を便利なツールとして使う以外に、「AIと共にデザインするファッション」を提案したのです。
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ファッション業界は、最も環境に対して害を与えている業種の一つと言われています。そのなかで一番深刻なのは布の廃棄。特に、女性の服を作るときは廃棄が多い。なぜなら、女性の体は曲線的なのにもかかわらず、布は縦糸と横糸の四角形だから。その結果、布の15〜20%は捨てられます。だから僕はAIの力を借りて、布の廃棄率が0%になるよう服のデータを作るプログラムを開発しました。


(Algorithmic Couture, Kazuya Kawasaki, Kotaro Sano, Kye Shimizu, 2018)

──様々な問題があるなかで、なぜ環境問題にフォーカスするのでしょうか?

僕の目的は、環境問題に対するアプローチを通して、ファッションのシステムを更新することにあります。ファッションと環境問題について考えてみると、人間の経済「エコノミー」の問題であり、動物や植物、資源など「エコロジー」の問題でもあります。あらゆる問題の中でも特にスケールの大きな地球規模の問題ですから、ファッションが取り組むべき問題として大きな必要性を感じました。

そのためには、大きく私たちの衣生活に関わる「消費」について再考しなくてはならないと考えています。オートクチュール(注文服)からプレタ・ポルテ(既製服)へと移行してきた流れを踏まえて、環境と人間にとって最適な新しいファッションのシステムにつくりかえる必要があるのです。

最近は若い世代の後押しもあり、「サステナブルファッション」という呼び方で、多くのファッションブランドが環境改善に向けた服作りに取り組んでいます。しかし、一過性の流行としてのサステナブルではダメ。ファッションとテクノロジーの問題もそう。

環境、倫理、技術───ファッションと複雑な問題が絡みあう中で、具体的な方法が求められている時期だと思います。だから僕は、問題提起を志す「スペキュラティヴ」なマインドを忘れずに持ちつつも、次は「社会実装」に取り組んでいきたい。そんな展望を膨らませつつ、日々制作を続けています。



かわさき・かずや◎1991年生まれ。スペキュラティヴ・ファッションデザイナー/デザインリサーチャー。バイオテクノロジー、ウェアラブルテクノロジー、デジタルファブリケーションに依拠しつつ、ファッションが持つ未来志向・思索的な創造性を探求する実践をおこなう一方で、デザイン学としてのファッション研究を学術的に確立することを模索している。

文=田中一成 写真=柴崎まどか

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