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バリューマネジメント代表取締役  他力野 淳

町並みや建物を維持するだけでなく、人を呼べる場所に──。歴史的建造物の利活用を手がけるバリューマネジメントの他力野淳氏に、文化維持のためのアイデアを生むコツを聞いた。


町は、人の想いが詰まった「文化」そのもの。その文化を、価値ある形で未来に紡いでいきたいと考え、29歳で独立しました。現在は、歴史的建造物や町並みを、宿泊施設やレストラン、結婚式などに活用し、後世に残す事業を展開しています。

「町への特別な気持ち」は、長崎と神戸での原体験によって培われたと思っています。私は、長崎に原爆が投下された8月9日に、長崎県で生まれました。海軍出身の祖父からは、「昨日の当たり前は、当たり前じゃない」ということを、繰り返し何度も聞かされました。

大学3年生のときには阪神・淡路大震災に遭遇。神戸で被災した私は、給水車に何時間も並んで水を汲み、ボランティア活動に参加するだけで精一杯でしたが、じきに傷ついていた町や人に対して言葉で言い表せられない悔しさを感じて。「歴史ある神戸の美しい町を元通りにしたい。いつか必ず力をつけて文化を継いでいこう」と心に決めたのです。

しかしながら、古い町並みや建物、それらが持つ文化を残すだけでは、意味がありません。人が訪れ、時間を過ごし、お金を落としてくれなければ、文化はいずれ衰退してしまう。人を呼べる場所にするには、新たなアイデアが必要なのです。

現在、仕事で多くのアイデアが求められますが、その中で自らに課したルールが、「ひとりきりになること」。一方、誰かと一緒にいるときは、自分の中に蓄積した知識や経験をアウトプットする時間だと思っています。アウトプットを通じて成長することはもちろんありますが、アイデアを生み出すという意味とは異なります。

例えば、奈良市の旧市街地「ならまち」を活性化するというプロジェクトを形にしていくにあたっても、コンセプトから宿泊施設の屋号まで、たくさんのアイデアが必要でした。そのために、実際に私が考えを巡らせた場所は、四国へと向かう高速バスの中。車窓を眺めながらバスに揺られること1時間半、思いつくままに走り書きした言葉やイラストをもとに、築100年の酒蔵が生まれ変わることになりました。

手を動かした分だけ、ひらめきが生まれるというのは、不思議ですが事実です。また、時間が限られているというのも良い効果をもたらします。1時間半後にはバスを降りるとわかっているので、そこまでにアウトプットを出し切ろうと、知らず知らずのうちに自分を追い込むのでしょう。

アイデア出しはクリエイティブな仕事であり、積み上げ式ではありません。ここまでやって、1時間後に続きを考えるというわけにはいかない。途中でやめたらゼロリセットされるという前提で、アウトプットしきれるかどうかが大事なのです。

気をつけないといけないのは、集中しすぎる癖ですね。先日も、東京から京都まで新幹線で移動する間に、「壁は杉の焼き板だから、床は自然木がいいかな」などと想像を膨らませていたんですが、ふと車窓に目をやると「京都駅」の文字が……(笑)。降りそこねました。さすがに、降車駅に気づくくらいの余裕は残さないといけないな、と反省しきりです。

構成=伊勢真穂 写真=yOU(河崎夕子)

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