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2018.12.25 11:00

「自分らしくあること」を追求し続ける。ブリストル・マイヤーズ スクイブ辻和美のキャリアに迫る

ブリストル・マイヤーズ スクイブ 辻和美

男性社会だった製薬業界で今、女性活躍の機運が高まっている。女性役員として社内のダイバーシティを推進するブリストル・マイヤーズ スクイブ株式会社の執行役員・辻和美氏のキャリアから、「自分らしくあること」の大切さが見えてくる──。


営業職、開発職、研究職いずれも男性中心だった製薬業界。女性の登用が進んでいるものの、管理職はまだまだ少ないのが現状だ。そんな中、大手製薬企業ブリストル・マイヤーズ スクイブ株式会社の執行役員を務める辻和美氏のキャリアは、業界内でもひときわ存在感を放つ。
 
社内のダイバーシティを推進する活動も担っている辻氏のキャリアを紐解くと、しなやかに社会を変革していく姿が浮かび上がる。

信頼されるMRになることを目指して
 
辻氏が製薬業界に飛び込んだ理由も、独特なものだ。

「私の大学の卒業生が製薬会社日本イーライリリーのMRをやっていらして、その女性が大学の後輩たちに向けて行った講演を聞き、強いあこがれを持って製薬業界に入りました。しかし、MRの仕事がどういうものか、入った時にはよく知りませんでしたね」
 
MR(Medical Representative:医薬情報担当者)とは、患者にとって適切な薬剤を処方してもらうために、自社が扱う薬剤の安全性や有効性などの適正使用情報を、医師や医療従事者に提供する仕事。辻氏は、香川の営業所に配属となったが、地方ではまだ女性MRは珍しい存在だったという。

「私がアサインされた営業所は10人のスタッフのうち新人が4人。女性MRは私を含めて2人程度。ギリギリの人数でしたから、女性や新人だからといって仕事を任せられなかったわけではなく、はじめからやりがいのある仕事を任される経験ができました」
 
辻氏がMRの仕事で心がけていたのは、自分がプロモーションしている薬剤が、どのような患者に役立つのかを正確に伝え、信頼を得ることだった。

「患者さんにとって競合の薬剤のほうが適していると判断した時は、自社の薬剤を勧めない―そのようなMRになりたいと思って当時は仕事をしていました。『彼女の話なら聞こう』と思われるくらい信頼されるパートナーになるためには、どのような患者さんに自社の薬剤が適しているのか、という正しい情報を伝えることが大切だったからです。そのためにも、命に関わる薬剤を提供するという責任感を持って、薬剤や疾患についての勉強はしっかりとやりました」

MRの仕事にやりがいや喜びを感じる一方で、どこかで殻を打ち破れない自分がいた。無意識に、「女性は組織の中でこう振る舞うべきだ」「上司とはこういう存在であるべきだ」といった、固定観念にとらわれていたという。

「仕事そのものよりも、組織や社会に対して息苦しさを感じていたのかもしれません」と、辻氏は20代前半当時の自分を振り返る。

米国留学で知った「枠にはまった自分」
 
そうした「枠にはまった自分」を自覚したのは、経営学修士(MBA)を取得するために日本イーライリリーを退職し、サンフランシスコ大学に留学した時だった。

「アメリカに行って初めて、自分を制限していたことに気がついたんです。何か劇的な瞬間があったわけではなく、日々のいろいろな出来事を体験していくうちに得た気づきです。たとえば、MBAの勉強に来ていた仲間の女性は妊娠していましたが、彼女は『学生の方が、妊娠出産して子育てする時間をフレキシブルにタイムマネジメントができる』と考え、自らのライフスタイルを選択していました。私が考えもつかないような生き方を選んだ人に出会うことができたのです」
 
辻氏はこう続ける。

「また、ハンバーガーショップに行った時、友人がハンバーガーからパテを抜いてオーダーする姿にも驚かされました。私だったら、今日は肉を食べたくないと思っても、お店の人にそうは言えなかった。なぜ私は言えないのかと考え、『自分の行動が周囲からどう見られているか』を常に気にしている自分を自覚しました。こんなことをしたら周りからどう見られるか、店員がどう感じるかばかりを考えてしまって、自ら自分の行動を制限していたんです。ですが、周囲はそれほど自分のことを見てはいないものです。だったら、自分が思った通りのことを言い、行動すればいい。それまでは、相手に対してここまで言ったら言い過ぎかなと遠慮したり、相手が察してくれるだろうと考えたりして、発言や行動を控えることもありました。でも、カルチャーが違うと全く察してくれないし、言わなければわからない。そういった経験の積み重ねで自分は変わっていきましたね」
 
MBA取得後、ファイザーに入社し、マーケティングの責任者となった。当時は女性が責任者となるのは業界でも珍しいことだった。社内では受け入れられたものの、男性が責任あるポジションを占めていた当時の製薬業界全体においては、「若い女性で大丈夫か」という、女性の辻氏に対するネガティブな反応も感じたという。
 
しかし、そんな反応を受けても、辻氏は反発することなく、しなやかに対応していた。

「そういう環境だとしても、『その考え方は間違っている』と言ったところで仕方のないことです。男性中心の環境に自分が置かれた時に、自分がどう感じ、どう反応するかは、すべて自分の決断次第。ネガティブになってパフォーマンスが下がるのはもったいないこと。自分が損するだけだと思っていました。自分をコントロールする経験を積み重ねていくことで、置かれている環境をバルコニーから眺めるように、俯瞰的に見られるようになります。すると、だんだん楽しめるようになるのです。どうせだったら、逆境はゲームとして楽しもうと。ネガティブな反応をした人も、徐々に変わってきます。はじめはマイナスかもしれませんが、やることをしっかりとやっていけば状況は変わり、仲間として頼られる立場になってきます」
 
自分を客観視し、周囲からの目を気にせず自分らしくあり続けることで、責任あるポジションを全うできるようになったという。

「女性らしくとか、上司らしくとか、そういった『常識』なるものは、周りからどう見られるかを意識した時に生まれてくる考え方。そこに『自分』はありません。全て、誰かが判断した女性らしさ、上司らしさなんです。Be Myself、自分らしくあれ。様々な経験を経て、それでいいじゃないかという境地にたどり着きました。そういう考え方ができると楽になるし、解放された気分になりますよ」

さらに辻氏はこう語る。

「自分のバリュー、自分にとって大切なものがわかっていると、ブレなくなり、一貫性が生まれます。上司に対しても、同僚、部下、友人に対しても一緒で、態度が変わることがなくなります。自分が万能だと思わないことも大切。そんな意識は必要ありません。自分が万能じゃないから、助けてくれる仲間がいる。だから個々のダイバーシティが重要なのです。自分とは違うバックグラウンドや能力を持っている人たちがいる集団は必ず強くなります」

「女性らしくとか、上司らしくとか、そういった『常識』なるものは、周りからどう見られるかを意識した時に生まれてくる考え方。そこに『自分』はありません」と、辻氏は力強く語った。

「自分らしさ」を追求し続ける

辻氏は現在、ブリストル・マイヤーズ スクイブ株式会社のダイバーシティ推進活動「B-NOW(BMS Network of Women)」も担っている。

「ダイバーシティはジェンダーだけではありません。様々なバックグラウンドを持った人たちが集まることで組織を活性化させます。一方で、当社の営業部門における女性の所属割合は17% 程度です。そうした状況は変えていかなければなりませんから、B-NOWでは、女性に一歩前に踏み出してもらうための後押しができるような活動をしています。具体的には、『女性のキャリア継続、キャリアアップ意欲の向上』『男性と女性のさらなるジェンダー・ダイバーシティに対する理解の向上と実践』の2本の柱で取り組んでいきます」

「自分らしくあること」を追求し続けている辻氏のキャリア。「何が自分らしいのかを探し続けた20代前半の自分に、今、言葉をかけるとしたら何と言いますか」という質問に、辻氏は、じっくりと考えてこう答えた。

「冒険してくれてありがとう。その点と点が、将来思わぬところで繋がっていくから。今を楽しんで!」


辻和美◎大学卒業後、日本イーライリリー株式会社でMR・臨床開発部。その後、サンフランシスコ大学でMBA取得のため留学。ファイザー株式会社では、マーケティング統括部長などを歴任。現在、ブリストル・マイヤーズ スクイブ株式会社の執行役員を務める。

ブリストル・マイヤーズ スクイブ株式会社
https://www.bms.com/jp

Promoted by ブリストル・マイヤーズ スクイブ / text by Kazuhiko Kuze / photographs by Ryoji Fukuoka

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