琴坂:その戻し方について伺いたいのですが、少し難しい状況にあった中で、どのようなアクションを起こして戻されたのでしょうか?
足立:それに関しては当たり前ですけど、“品質に気を使っている”といった真面目なニュースはいくら出しても全然拡散されないし、みんな話題にしてくれないわけです。そうではなく、ポジティブなニュース、楽しくて話題になりそうなニュースをたくさん出す。それがマジョリティになっていけば、自然とネガティブな情報は見えなくなってきます。
琴坂:例えば、どんなニュースを出しましたか?
足立:例えば、昨年に行ったマクドナルドの愛称を「マック」か「マクド」のどちらで呼ぶか競い合う投票キャンペーンは良い例ですね。何となく話題になりそうなニュースをたくさん出していくことで、ネガティブなニュースが見えなくなっていく。そうすることで全体の空気感が変わってくるんです。
琴坂:ネガティブなものに対して対抗するのではなく、楽しいニュースを発信していくことで全体の空気感を変えていく、と。
足立:ネガティブなコメント等に対しては、会社として真摯に対応するのはもちろん必要ですが、それだけでは効果は限定的だと思います。
小泉:じゃあ、社内にそういう勢力がいたとしても、そこはある程度無視して?
足立:品質などネガティブな噂があった会社はいっぱいありますけど、そこに真正面から「やってません」と対応するだけで、解決した例はひとつも知りません。
琴坂:なるほど、たしかにそうですね。PRという文脈においては、さまざまなステークホルダーがいる中で、もちろん自分たちを嫌いになってしまう人もいるけれど、味方になってくれそうな人たちを重視していくということがときにはより重要になる。
足立:インターネットの世界、みなさんもご存じだと思いますが、必ずアンチはいるわけです。何をやってもダメ、ダメと言ってくる。その人たちとやり合っていても何も生まれません。もちろん、その人たちの問題に真摯に対応することはとても大事ですが、単純に批判に対応するだけでは何も解決しない。であれば、他の人たちからもっとポジティブな反応をもらうことが大切なのではないかな、と思います。
時には「炎上」も覚悟して、社会の反応を探りに行く
小泉:ノイジーマイノリティと、どう付き合っていくのか。ある意味、どう無視していくのか。そういう意味では、僕らもテレビCMで過去最もパフォーマンスがよかったCMって、最もネット上で炎上しているんですよ。
足立:どんなCMですか?
小泉:リアル店舗に行って、カップルが靴を見ているのですが、彼女が悩んだ末に買わず、店舗を出てから彼氏が「なんで買わないの?」と聞いたら、「だって、メルカリのほうが安いから」と答えるCMです。いま考えたら、それは炎上するだろと思いますね(笑)。
琴坂:すごいフレーズですね(笑)
小泉:当時、炎上しそうかなと思ったのです、それが最もユーザー心理に近いし、トライする価値はあるな、と。小売店の人たちにはすごく嫌がられると思いましたが、そのCMによって社会の空気がどう揺れるのか、反応を見てみたかった。
結果的に、そのCMが最もパフォーマンスは良かった一方で、ネガティブな反応をもらいました。ただ大事なのは、マジョリティの人たちの感覚を知り、どうやって空気をつくっていくか。そこにフォーカスしなければ、なかなかファンは増えていかないからです。
ある程度、マネジメントが強い意志を持たなければ、少しでもネガティブな反応があると「どうしよう……」ということになってしまう。ノイジーマイノリティにどう対応するかは会社として考えなければいけないことかな、と思っています。