政府とは「ファクトベース」で話すべき
琴坂:先ほどマーケティングとPRの違いについて議論しましたが、PRという文脈から考えたときのガバメントリレーションズはどのような違いがあるのでしょうか。また、どういう進化が求められるのでしょうか?
小泉:ガバメントリレーションズの観点で言うと、国民生活が豊かになる方向性で、なおかつ事業が伸びて生活に一旦根付くと、なかなか批判できないというか、否定できない。そのため規制当局ないし、既得権益の恩恵を受けている既存産業は、ウーバーやエアビーアンドビーなどの新興勢力がメジャーになる前に潰そうとするわけです。
僕たちみたいな新興勢力からすると、メジャーな存在になれるよう、どれだけ早く事業を成長させることができるか。そして成長の過程で応援団をつくりながら、ディフェンスし続けていけるかどうかが大事かなと思います。
足立:私は既定の問題だと思います。ガバメントリレーションズが大事だと言われているのは、政府または地方自治体が、事業運営の障害にならないようにするためだと思います。そのステージを超えて、政府または地方自治体にサポートしてもらいたいとなると、それはPRだと思います。私は基本的にステージの違いだと思っています。
琴坂:おそらく、ほとんどの企業はPR3.0の中で定義されているガバメント・リレーションズは実現されていないと思います。それを実現するために今日、この会場に足を運ばれていると思うのですが、実現には一体何が必要になるのでしょうか?
小泉:僕も教えてほしいですね(笑)。メルカリ初期の頃、政府の人と話すときは常にファクトベースで話すことは意識していました。分からないものに対して、感覚をベースに話をすると議論にならないので、僕はまずカスタマーサポート(CS)のメンバーに「なるべくデータを取ってほしい」と言っていました。
例えば、違反商品の出品や不正取引の件数などの数値をなるべくトラックしていく。それが過去から未来へと今後どうなっていくのかをファクトで見せると、やっと議論ができる。まずそこを徹底的にやっていくようにしました。データが整ってくると、それをPRで生かすことができたり、ディフェンス的に生かすことができたりするかもしれないので、データを取ることはとれも重要です。
各社、各社でポジティブなデータを取っているのですが、ネガティブなデータは取っていない。そうすると、ネガティブな側面をつつかれたときに対応できなくなるので、最初からポジティブ、ネガティブ両方のデータを持っておくことが大事だと思います。
琴坂:前時代的なガバメント・リレーションズは人間関係に依存していたけれど、いまの時代はファクトをもとに数字で説明できるようにしていく方が良いということですね。
小泉:当然、人間関係という「ウェットな部分」と、数字という「ドライな部分」の両方をやらなければいけないと思っています。個人的な印象として、数字の部分が欠けているケースが多いと感じているので、そこには意識を向けておいた方がいいですね。
ネガティブには向き合わず、ポジティブニュースを発信し続ける
足立:ネガティブなニュースをポジティブに転換する方法は、僕の中で1つしかないと思っています。ネガティブなニュースは必ず出てくるし、それが消えることはないので、それ以上の量と頻度でポジティヴなニュースを出してあげることです。ポジティブなニュースを目にする機会が増えると、ネガティブなニュースは見えなくなってくる。
実はマクドナルドにいたとき、「グランドビッグマック」という商品を販売しました。その商品のCMにが当時、白鵬関が出ていまして、彼がバンとCMに出たことで、グランドビッグマックは大量のポジティブなPRのカバレッジを獲得し、ヒットしたんです。そこからメディアの潮目が変わり、大量のポジティブなPRのカバレッジを獲得し、ヒットしたんです。
私はそういうティッピングポイントが必ずくると思っています。ポジティブなニュースをたくさん出してあげると、どこかのタイミングでディフェンスからオフェンスに変われるはずです。
琴坂:どのタイミングで、「楽しいマクドナルド」のようなコンセプトにメッセージの焦点を変えていかれたのでしょうか?
足立:「楽しいマクドナルド」は昔からあったコンセプトなので、何も変えてません。そもそもマクドナルドには「ファンプレイス・トゥ・ゴー」という言葉があって、それがしばらくの間、いろんなことがあって言われていなかったので、再び言い出すことにしただけです。それに対して誰もノーと言うことはありませんでした。
琴坂:「楽しいマクドナルド」は新しいコンセプトではなかったんですね。
足立:昔、みんなが好きだったマクドナルドに戻しただけです。