ビジネス

2018.12.21

マックのV字回復、メルカリCMの炎上──「人格」がある会社にはファンがつく

左からナイアンティックの足立光、メルカリの小泉文明、慶應義塾大学の琴坂将広


社内と社外をわけて考えることは意味がない

琴坂:今回のカンファレンス、副題に「企業と個の新しい関係」と書いてあります。PR3.0の世界観について、旧来のPR、そしてマーケティングやガバメント・リレーションズの考え方との違いから考えてきました。これまでの内容を踏まえると、個を見ながら全体観も必要で、保守的にならずに味方をできるだけ増やす、難しいかじ取りが求められるように聞こえます。

できる限り味方を増やし、敵を減らす、自社の応援団を作り上げていく過程の中で、企業、つまり自社と個、ステークホルダーとの関係性はどう変えていけばいいのでしょうか?

小泉:僕が思っているのは、「企業」も違う言い方をすると、法人もしくは法人格になる。要は、法人にもある程度、人格があるのかなと思っています。その人格に軸として1本通っているのものがミッションやバリューなど、会社の大事にしているもの。これが会社の人格のベースになり、それをベースに会社はコミュニケーションしていく。

この法人格をどうマネジメントしていくのかが、企業と個の新しい関係であり、むしろ企業ではなく、法人格という1対1の関係性がいろんなところで出来上がることになると思っています。

足立:近いことを言われちゃって悔しいですね(笑)。いまの時代、企業は個人の集合体でしかなく、その中で個人が外へ向かって話すのをやめろと言っても無理なわけです。

そうした時代において大切なのは、「この会社の人らしいことって何だろう」「どういう受け答えをするのが、この会社の人らしいんだろう」と考えることです。会社のビジョン、信念、何でもいいのですが、会社が大事にしていることをみんなが信じて、行動にあらわすことが大事だと思っています。

琴坂:法人格は、単に組織の境界でしかないと捉える事もできます。組織の中に所属する個はその組織の一定の支配下にあり、組織の外に存在する個は単にその支配の影響を強く受けない存在です。その境界を超えて、例えばメルカリという境界の中にある個と、その境界の外にある個が多数の線で複雑につながり合っている状態であるとも理解できます。

組織の中の個と組織の外の個が複雑に絡み合う時代を考えたとき、組織の中にある個に対するPRと、組織の外にある個に対するPRはどうつなげていけばいいのでしょうか?

足立:変わらないと思っています。

琴坂:変わらない?


 
足立:結局のところ、いち消費者として同じところを見ているわけですから、外に向けてやるPRと中に向けてやるPRが違うものだったら、間違いなく炎上します。

琴坂:なるほど。

足立:すぐ分かりますからね。ですから、外向けのメッセージと内向きのメッセージはそんなに変わらないと思います。

小泉:僕も全く同じだと思います。それで嘘ついてもバレますからね。だからこそ誠実に思っていることを言い続ける必要性があると思います。ただその一方で、僕が唯一、意図的に行ったのが、創業当時からずっとメディアに会社のバリューを言い続けることです。

琴坂:言い続けてますよね。

小泉:最近、社外の人でさえ知ってるのではないかってくらい、みんな知っている。何ならいろんな経営者に「これ、マネしていいですか?」と言われるくらいです(笑)。

これをわざと言い続けていたのは、成功する前提がバリューにあることを刷り込んでいく必要性があると感じたからです。メルカリはバリューがあったから成功したのかもしれないし、もしバリューがなかったら成功しなかったのか分からないのですが、バリューを言い続けることによって会社が大事にしていく価値観が明確になっていった。経営的な視点から宗教的なアプローチをわざと最初から入れていっています。

琴坂:組織の中にいる人たちは特定の考え方を共有する、人間の濃度が濃い集団です。例えば、昔の日本企業は朝礼をやったり、社歌を歌ったり、社内報を見たりして、同じ価値観を共有するようにしていたかもしれないですよね。

足立:いま社内、社外という言い方をされていますが、これは個人がずっと同じ会社の社内にいる前提なんです。実は全くそうではなく、転職も一般的になっているし、もう政府が兼業を勧めるように変わってきています。そうなると、その会社の人である前に個人だし、その会社以外の場所でもいろんなところ仕事をしている可能性がある。そうすると、社内、社外と分けられなくなると思います。

琴坂:退職者のコミュニティなどもありますからね。

小泉:ありますね。僕らの会社では、さっき言ったメルカンに社員を出すのも、社員が自分の言葉で会社のことを話すことで、個人が立っている裏側に会社が居るという……なんていうんですかね。会社は裏側に居るけれど、お互い意識し合うという存在でありたいと思っていて。

あくまで、その人のモチベーションは「自分の思いを社会に伝えたい」というものでいいのですが、その裏側でメルカリの組織を引っ張っている。そんな関係性でいいんじゃないかな、と思っています。

将来、会社の広報は必要なくなる?

琴坂:なるほど。新しい関係性の中で、外と中との区切りのないコミュニケーションが必要になっていく形ですね。最後に、これも突拍子のない質問なのですが、ここまでさまざまな角度からPR3.0を考えてきたわけですが、さらに未来を考えるとするならば、2030年頃にはPR4.0が必要になるのだろうと思います。

さらにときを進めて今から12年後、2030年くらいになったときに、PRという文脈で最も重要になっていると思うものを教えていただけないでしょうか?

足立:いま、みなさんと名刺交換すると、「◯◯社の◯◯です」と大体先に社名が来ますよね。それがなくなると思います。なぜなら、みなさん複数の組織で仕事することになるからです。自己紹介の最初に来るのは、自分自身であって、会社ではなくなる。

そうなると、会社のPRはそもそも何なのかという話で。毎日、数時間しか時間を共にしていない、たまたま同じプロジェクトに参加している、という状態の人たちが、何を発信するかは結局、会社のビジョンや信念がベースになってくる。

だからこそ、より会社のミッションや社会貢献性などが重要になってきて、それをもとにみんなが「私はこういう人たちと話すんだ」と思うようになるので、そもそも会社の広報が要らなくなるかもしれない、または社内に対していかにそのミッションやビジョンを浸透させるという仕事の比重が増えていくかもしれない、と思っています。



小泉:2030年になると、モノを作ってモノを売るという物質中心的な資本主義の延長線上にある社会から、おそらくコトを売ってみたり、時間を売ってみたりなど、何となくモノではないものが社会を席巻していくと思います。モノを中心としたPRはなくなっていき、今後は空気を売るといった文脈でPRしていくことが当たり前になる。例えば、レクサスでは最近新しく出来たショールームではもう車を置いていないわけです。

PRでマスにウケることを考えるのはもうなくなる。むしろ最初の10人、100人など最も熱量の高い人たちをどうやってマネジメントしていくか。熱狂的なファンをつくっていくことが大事になってくるんじゃないか、と思います。

琴坂:つまり、ミッションやビジョンがより重要となり、プロダクトではなく、熱量の高いファンの方々との関係性を重視しなければならない世界ですね。そろそろ時間となりました。引き続き、PR3.0の先の未来も想像しながら、企業と個の新しい関係について考えていきたいと思います。ご清聴、ありがとうございました。

写真=PR Table提供

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