フォーブス ジャパン編集部 エディター


琴坂:まさにお二人が仰っていたように、PRの考え方がアップデートされていった背景にはソーシャルの力が強まったことによる「個のエンパワーメント」があるのではないかと思います。そもそも、PRの原点はナチス・ドイツにあるという見方もあります。

いわゆる国民国家、民主主義の精神が欧州から始まり、それが広がるまでは、例えば絶対王政、封建主義の国家がほとんどでした。情報は権力から民衆への一方通行であり、民衆を説得する必要性は今よりも低かった。しかし、民主制度の発展により、権力者は民衆の納得と支持を得ざるを得ない立場にと変わります。

例えば、ナチスドイツは民衆の支持を集めるために映画などの表現技法や心理学などの知見を積極活用し、人々の考え方に影響を与え、それを自分たちに都合の良いように誘導していきました。確かに、民衆の思考をこれほどまでに大々的に操作しようとしたのは稀な事例と言えます。

個人がより力を持つ時代になり、社会への発信が組織の存亡を左右するようになる。この大きな流れをうけて、企業も消費者を始めとする利害関係者に対して積極的に発信し、説得していくことが求められるようになった。これがPR1.0の世界の始まりかと思います。

それがPR2.0になると、さらに個人が力を持ち、何より発信力を持つようになった。それを背景として、企業は個人が情報をさらに第三者に伝播させていくサイクルを意識し、それを作らなければいけなくなった。このような流れでPRが進化してきたと思うのですが、そうすると、我々が語ろうとしているPR3.0って一体何なんなんでしょう?(笑)

足立:私はマーケティングの1.0、2.0、3.0というアップデートと似たような意味で使われていると思っています。企業と消費者がお互いに信頼を構築していく。そんなイメージです。とはいえ、PR3.0が何かは議論されている最中なので、まだ明確な定義はないのかな、と思っています。

小泉:ソーシャルの力が強まり、個がエンパワーメントされるようになったいま、もう昔の時代には戻れないと思うんです。例えば、販売価格すらも会社が決定することは厳しくなってくるかもしれない。なぜなら、人によって、ある商品に対する価格は1000円かもしれないし、5000円、1万円かもしれない。

僕は会社と個人が「縦」でつながっていたのがPR1.0の世界で、個人同士が「横」でつながるようになったのがPR2.0の世界だと思っています。PR3.0の世界では、さらに個人のエンパワーメントが進み、企業が下で個人が上という新しい「縦」の関係になると思っていて、企業が商品の情報を短期間に大量に発信しても反応しないと思うので、商品ではない世界観を丁寧に継続的に醸成することで、いかに個人が自発的に自分の言葉でその商品やブランドのことを言えるような環境を作るかが大事になる。もっと個の力が強まっていく可能性さえもあるのではないか、と思います。



琴坂:これまでのPRは企業が伝えたいメッセージを説得することがメインになっていたけれど、PR3.0の世界になると、個人の中に眠っている、その個人が持つ企業のイメージを企業が理解し、それを拾い上げて自分たちのものにしていく、と。

小泉:もうプロダクト(製品)もなくていいんじゃないですかね。PR2.0の関係性ではプロダクトが中心にあったと思いますが、もうプロダクトさえなくてもいい。そんな感じです。

足立:マーケティング3.0は基本的に顧客同士が会話する。PR3.0も同じコンテクストだと思っていて。発信じゃなくて、会話する。そこから何かしらいいものをもらっていく。正直、マーケティング3.0とPR3.0に違いがあるのかどうかは僕の中で微妙です。

空気を扱うのが「PR」である

琴坂:もう一つお聞きします。広告とPR。この2つは別の文脈で語られてきましたが、段々と境目が緩やかでわかりにくくなっています。どこに境界線を引けばいいのでしょうか。どこからどこまでがPRで、どこからどこまでが広告宣伝なのでしょうか?

足立:私が生徒会長に立候補して、公約演説などしても、「ふーん」という感じで、生徒たちにはあまり刺さらない。でも、その生徒たちの信頼する人、先生や塾の講師みたいな立場の人が「足立はいい人だ」と言うのを耳にしたりすると、かなり信頼が高まる。これがPRの効果です。そして、同じ学校の友人や知人から「足立はいい人だよ」と耳にすると、さらに信頼が高まる。これがいわばSNSの効果です(笑)。

メッセージの内容は全く同じなのに信頼感が全然違う。ちなみにもうひとつ、ソーシャルというものもあります。これは女性に共感している友だちから「足立さん、良い人だし付き合っちゃいなよ」と言われると、同じメッセージでも信頼性が高くなる。実は広告とPR、ソーシャルというのは、同じメッセージを違う人が言っているだけなんです。ただし、勧誘の信頼度が全く異なる。

琴坂:これは私の理解ですが、マーケティングはそれぞれの顧客への対応を最適化して、購買につなげていく。あくまで顧客が主体でそれに合わせていくイメージです。それに対してPRは、それぞれの顧客や利害関係者にカスタマイゼーションされたメッセージを伝えしながらも、全体のつながり、全体最適を意識した自社固有のイメージの醸成を目指しているのではないか、と思っています。マーケティングとPRは少し方向性が違う気がしているのですが、小泉さんいかがでしょうか?

小泉:僕も琴坂さんと近いことを考えているのですが、もうちょっと空気を扱うのがPRっぽいかな、と思っています。マーケティングも空気を扱うのですが、PRの方がコントロールできない部分も含めて空気をつくっていく感じです。

マーケティングはある程度、広告を出稿していく中で企業側のメッセージが押しつけがましく響かないという話がありましたが、PRのほうがコントロールできない。

ですから、メルカリでは割とネガティブな報道もされますが、個人的には必要なことだと思っています。80%がポジティブなニュースで、残りの20%はネガティブな方が空気はマネジメントしやすいのではないか、と思っています。そうした中で、会社としてどんなメッセージを持つべきかは常に考えています。

写真=PR Table提供

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