この分野では、アマゾンやネットフリックスが先んじており、大成功を収めている。アマゾンは、オリジナルコンテンツへの無料アクセスを謳って、有料会員(アマゾンプライム)の会員数を伸ばしている。ネットフリックスも、クオリティの高いオリジナルコンテンツを梃子にして、ストリーミングビジネスモデルへの移行を強めている。
この勢いを追う形で、アップルは去年から大きな予算を組み、ドキュメンタリー映画や脚本のあるトークショーなどの制作に入っているが、計画は大きく遅れている。今回のA24スタジオとの提携により、本格的な成年層向けのエンターテインメント映画をスピーディーにつくり、Apple TVやiCloudのストーレッジなどのiPhoneまわりの商売につなげる意向だと報じられている。
ウォール・ストリート・ジャーナルによれば、さらにアップルは、大ヒットドラマの「ブレイキング・バッド」や「ザ・クラウン」の制作に関わったジェイミー・アーリクトやザック・バン・アンバーグをSONYピクチャーズから引き抜き、今後の映画制作の指揮をとらせるとのことだ。
映画進出の裏にiPhoneの不振?
なぜ、いまさらアップルが参入するのか? かつてのこのコラムで、筆者がハリウッドのテレビドラマ制作者からチャンスを得て、東京を舞台にしたドラマのプロットづくりに参入し、思い切り空振り三振をした話を紹介した。そこでは、劇場でも地上波でもない、ケーブルテレビやネット配信のような第3の配給が力を持ち、業界の構造を変えながら、さらに進化へと向かっているという話を書いた。
日本のトップレベルのドラマプロデューサーに話を聞くと、これは世界的な潮流になってきており、地上波がいまだに主導権を握る日本は例外であり、いつまでもこの例外は続かないと、地上波ドラマの危機を訴えていた。
近年のハリウッドの再構築は、メジャースタジオが主演俳優の数10億円のギャラを捻出するために、「アベンジャーズ」に代表されるような巨艦大砲主義に向かわせる一方で(ちなみに「ジュラシックワールド」は150億円の予算で1600億円を稼いだ)、A24スタジオのように、普通の予算で普通に収益を得ようとしてきた中小スタジオに活躍する場所を与えることになった。
そしてそれは、もはやニッチではなく、「ブレイキング・バッド」のように大舞台にもなる。そうであれば、新参者のアップルでも射程距離にあると考えたわけだ。
実際、iPhoneは新商品が出ても、昔ほど売れなくなっている。市場には飽和感が漂い、それを突き抜けるほどのフィーチャーが新商品にあるかというと、賛同の声は少ない。であれば、アプリを売るためにも、後発でも映画に進出するべきとの経営判断は十分あり得る。