読者の中には、「えっ、でも自動運転車の時代になれば問題は解決するのでは?」と思う方もいるかもしれませんが、自動運転には限界があります。
まず、アジアと欧米では、交通の環境とクルマの使われ方が全く異なります。米国では、オフィスの隣の駐車場から出るとすぐに高速に乗って、そして高速を降りて少し走るとレストランに着いてランチをとる。クルマの使い方が日本とはまるで違います。
古くから欧州では、馬車と人が区別されてインフラができていましたが、アジアでは、人も自転車もバイクもクルマも混在しています。したがって、欧米の環境での自動運転と日本やアジアでの自動運転では、難度が大きく異なります。
日本では交差点が100mおきにあって、そこにはルールを守らない人もいて、飛び出しもある。こうした歩行者を避けるのは高度な要求です。クルマ同士でも、右折のとき目くばせしてどっちが行くか駆け引きしたりする。これはコンピュータには難しい。
アジアの人混みは日本よりずっとカオスですし、インドでは地図や住所の整備も不十分です。ハードルが低いところでの自動運転は比較的早く実現するでしょうが、できないところでは目途が立たないと専門家は言います。つまり、自動運転以外のイノベーションが必要なのです。
交通革命は新たなビジネスチャンス
日本での交通についての具体案は、既存の交通の延長線上か、バスや高速での自動運転くらいにとどまり、現実には昔からのコンパクトシティやマイカーより公共交通といったお題目に取り組まれているようです。
これでは未来志向が足りません。将来像から逆算するバックキャスティングに転じたほうがよいでしょう。それに、国際的視野も足りない。成長著しいアジア諸国を含め、海外での問題解決に、日本企業が積極的に貢献できるよう手を打ちたいものです。
国と自治体のイニシアチブとアントレプレナーシップがカギとなって交通革命が進むと、民間事業と公共交通が互いに近づいていきます。そうすれば、いまのサービスや車両を超えた新たな交通モデルも創造できるでしょう。また、公共交通を含む様々な移動手段を融合させていくと、街そのものがビジネスモデルになります。都市計画や地域のリーダーシップでどんどん街に差がつくでしょう。
筆者は、交通イノベーションに挑む方には、海外との連携や日本にとどまらない展開をアドバイスしています。例えばスズキがシリコンバレーに送ったチームはシニア向けカートを開発中だとか、前述のWhimは、日本展開のためパートナー候補と交渉中だといいます。また国内なら、東京より地方や特区で先を行く取り組みができるのではないでしょうか。
規制や枠組み、過去の計画にとらわれず、交通革命を新たなビジネスチャンスとして捉えたいものです。
連載:ドクター本荘の「垣根を超える力」
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