スイスで高級機械式時計と同様に精緻な意匠と確かなつくりで名を馳せるのが高級筆記具である。その代名詞ともいえる名ブランドの魅力の秘密に迫る。
高級筆記具のブランドにもいろいろあるが、カランダッシュは未だにスイスの自社工場で製造していること、そしてコレクター垂涎の稀少なコレクション展開に加えて、アフォーダブルでタフなプロツールのラインアップも大切にし、あらゆる「書く/描くプロフェッショナル」たちからも支持を得ている点でユニークといえる存在だ。
長い歴史を誇る同ブランドの経営を担う現当主キャロル・フブシャーは、2012年に父から事業を受け継いだ。以前はブランディングのコンサルティング会社で経験を積んできたが、それゆえに備わった客視の能力により、自社の魅力と可能性を見抜いたという。
「スイスのお家芸でもある高級機械式時計のブランドにも勤めましたが、カランダッシュもまさに名立たる時計ブランドが拠点を置くジュネーブに創業し、いまも自社工場内では90以上もの異なる工程を熟練の職人たちが手がけています。重要な柱のひとつである高級筆記具のラインにおいてはギロシェ彫刻、エナメル圧着、最高級素材の扱いなど、時計づくりに通じるクラフトマンシップの部分が多く、私たちは製品に刻印される『SWISS MADE』の文字に特別な誇りを感じています」
フブシャー家は、同社のオリジンである鉛筆をモチーフにした六角形のボディをもつ代名詞的コレクション「エクリドール」をはじめとするロングセラーを大切に扱いながら、同時に時代の流れからヒントを得てつくる革新的で創造的な新作の開発にも余念がない。
文末に紹介する新作も、高級機械式時計や地元ジュネーブのレマン湖といったブランドのルーツやストーリーを大切にするモチーフを扱いながらも、デザインや素材づかいにおいては勇気をもって新しいことに挑戦している。
そうしてつくられる製品は、SNS時代においても独自の審美眼をもつ粋人たちを虜にする一方で、先述した「書く/描くプロフェッショナル」たちをも魅了してやまない。それは同社の製品が、本物としての性能を備える証しともなっている。
「例えば『エクリドール』は、他社の多くの製品と異なり、手に持ってすぐに書き始められるノック式を採用し続けています。また自社製のゴリアットカートリッジは、タングステンカーバイドを素材とする非常に耐久性の強いボールを備えるほか大容量のタンクを備え、また通常より多い5本の軌道をもつのでバランスの良いインクの供給を実現します。この美しさと質感、さらにプロのニーズに応える機能性の融合にこそ、私たちの大切にする価値観が体現されているのです」
CARAN D’ACHEとは
世界100カ国以上に販売網をもつカランダッシュは1915年、レマン湖畔にある風光明媚な文化都市ジュネーブで、その前身となる鉛筆工場として創業した。エポックメイキングとなったのは1929年に発表し特許を得た世界最初の完全金属製メカニカルペンシル「フィックスペンシル」である。
いわゆるシャープペンシルの元祖となったこのペンは、ルーツである鉛筆と同じ六角形の本体を特徴とし、その本体には数寄を凝らした繊細な彫刻加工が施され、のちに同社を代表する「エクリドール」コレクションへと進化を遂げる。以降、高級ライン、プロ仕様の筆記具、画材なども拡充し、世界を代表するブランドとして躍進を続けている。
不朽の名作エクリドール
シルバーボディに、シンプルかつユニークな彫刻を施したエクリドール コレクション。1929年に発売された世界初の自動給芯機構を持つ完全金属製フィックスペンシルの六角形ボディの形状を引き継ぎ、後にエクリドールコレクションとなった。ボディからペン先までがひとつの部材(真鍮製)でできており、シンプルな造形美と丈夫さを両立。
表面にはバリエーション豊かな美しい彫刻が施され、また特注品や限定品も含めると50を超える豊富なバリエーションもあり、優れた実用品としてはいうまでもなく、コレクターズアイテムとしても人気を博している。ラインナップは万年筆、ローラーボール、ノック式のボールペン、ペンシルの展開となる。
技術と伝統の粋ともいえる最新モデル1010タイムキーパー
スイスが誇る高級機械式時計へのオマージュとして生まれた限定品「1010」(テンテン)シリーズの第3弾。10時10分という、時計の文字盤が左右対称を形づくる最も理想的な瞬間を指した時計をモチーフに、秒針やリューズ、ムーンフェイズ、ルビーといった時計の象徴的な特徴を、細部にまでこだわって再現している。
レマンナイト
1998年に誕生した「レマンコレクション」。その20周年を飾るアニバーサリーエディションとして発表されたのが「レマンナイト」。モチーフとなったのは、毎年夏にレマン湖で開催される花火に照り輝く夜の水面。ボディにはギロシェ彫刻「クル ド パリ」を施し、その上から半透明のラッカーをかけた奥行きのある仕上げを特徴とする。
スペシャル エディション フレグランス ペンシル “エディション8”
ブランドのルーツである鉛筆を、こだわりの素材づかいと香りづけによってスペシャルな仕立てにしたボックス入り4本セット製品。軸には選び抜かれた最高級の再生木材を使用。またヴァージニア、アトラスシダーといったエッセンスをフレグランスとして加え、「学生時代の淡い思い出」を彷彿させる香りに仕上げている。
キャロル・フブシャー◎カランダッシュSAプレジデント。米国の販売代理店、スイスの時計ブランド、ブランドコンサルティングエージェンシー勤務ののち、高級ブランドに特化したブランドストーム社共同経営者に。2002年にカランダッシュ取締役会メンバーに加入。12年に父ジャック・フブシャーから経営を継承しプレジデントに就任。
カランダッシュ
www.carandache.co.jp