iPhone SEは価格を抑えつつ、非常に高い評価を得たモデルだった。しかし、ティム・クックらがハイエンド端末に特化する姿勢を強めるなかで、iPhone SEは異端の存在とされた。
iPhone SEは発売から数年を経ても最新のOSに対応し、新たな顧客をiOSに取り込むうえで、最も魅力的な端末だった。しかし、そのSEは既に製造中止となっている。ネット上には、最後の在庫を販売中の業者もいるが、アップルが今エントリーモデルと位置づけているのはiPhone 7だ。
しかし、アップルはiPhone 7よりもiPhone XRが「手頃な」価格の端末であるとアピールしており、定価749ドルで販売中だ。また、手持ちのiPhone 7 Plusを下取りに出せば、300ドルを割り引いた額でXRにアップグレード可能なオプションも提供している。
だが、アップルがiPhone SEをリリースした当時、同社が目標とするのは、既存ユーザーに買い替えを求めることなどではなかった。新たな顧客をアップルのエコシステムに呼び込み、売上を高め、マーケットシェアを拡大していくのがアップルのゴールだった。
ところが、現在ではもはや、新たな消費者を呼び寄せる端末は存在せず、同社が「手頃な価格」とアピールするXRも、とても安いとは呼べない価格設定だ。
また、オーディオ接続用にヘッドフォンジャックが装備されており、ディスプレイのサイズも現行モデルよりもずっと小型だった。
新型SEのオーディオ接続をブルートゥースのみにすれば、AirPodsの売上をさらに伸ばすことも出来ただろう。
アップルが仮にiPhone SEの最新版を出していたとしたら、出荷台数を増やし、iOSのエコシステムに新たな顧客を取り込めたはずだ。新規の顧客は、今後数年にわたりアップルのサービス部門の売上を支えることになっただろう。
アップルは、その代わりSEを廃止し、iPhoneをラグジュアリーブランドとして打ち出す方策に出た。株価への悪影響を懸念し、四半期ごとの決算発表では出荷台数の公開を停止した。アップルは今、顧客のそれぞれから、可能な限り多くの金を絞りとることに専念している。
iPhone SEはかつて、アップルをスマートフォン市場のメインストリームに押し上げる役割を果たしたが、現状の高額モデルで市場シェアを拡大することは不可能だ。アップルは今再び、SEの市場への再投入を考えるべきなのではないか。