クリスタル用のブドウは、ルイ・ロデレールの広大な自社畑の中でも、最高品質のブドウを生む畑から収穫される。つまり、シャンパーニュ地方の中でも、日当たりや土壌、斜面や水はけといった、好条件の揃った畑だ。また、シャンパーニュ地方特有の石灰質がとりわけ多い土壌でもあり、結果的に、長期にわたり熟成が可能なワインを生み出すのも特徴である。ブドウの木の樹齢も平均45年と長く、古いものでは樹齢70年を超える。
今年のブドウ収穫時に、特級格付けのアイ村にある「ラ・ヴィレール」(La Villers)という、ビオディナミ栽培の畑を訪れた。この畑は、南向き斜面の中腹という理想的な位置にある。これまでは若木だったためクリスタルには使われなかったが、20年を経て、今年初めて「クリスタル・ロゼ」の要のワインとなる。
グラン・クリュ格付けのアイ村にある「ラ・ヴィレール」の畑には、クリスタル・ロゼ用のピノ・ノワールが植えられている。
その近隣には、植え替えられたばかりのクリスタル用の畑がある。これから数十年の歳月を待たねばクリスタルには使われないこれらの若木は、醸造責任者のレカイヨン氏の言葉でいうと、「次世代へのギフト」ということになる。
同氏にとってクリスタルを造ることは、毎回「白紙からのスタートで作品を創造する」ことだ。ひとつとして同じ年はない。目標は、「クリスタルの一貫したスタイルを維持しながら、収穫年の特徴と土地の個性を引き出し、クリスタルの象徴であるピュアさとフィネスを表現すること」だと語る。
そのため、クリスタル用のブドウは、2012年収穫年からすべてビオディナミ栽培で育てられおり、クリスタル・ロゼはさらに早く、2007年収穫年からビオディナミ栽培のブドウのみが使われている。
長期熟成でポテンシャルが発揮される
シャンパーニュ造りには工程が多い。一つ一つの判断に意味があり、その積み重ねがワインに反映される。優良な作り手にとって、細部を徹底することは、最終的な作品を完璧に近づけるための唯一の手段だ。特に、クリスタルのブレンド作業の時には、とりわけ研ぎ澄まされた集中力と感性が求められ、期間も数週間を要するという。当然ながら、求める品質に達しない年には、クリスタルは生まれない。
今年は、最新ヴィンテージの2008年、偉大な収穫年であった2002年の再リリース、そして21年もの長い期間、自社のセラーで最適な方法で熟成させてリリースした1996年「ヴィノテック」と3種類のクリスタルを世に送り出すという特別な年になった。異なる熟成段階の作品を出すのには、クリスタルの変化の過程を感じてもらい、時間を経て花開いたワインを味わって欲しいという思いがある。
1979年クリスタルと1978年クリスタル・ロゼ。40年の時を経てもフレッシュさと果実味を失わない長熟のシャンパーニュ
実際のところ、クリスタルは、ワイン醸造においても、長期間にわたり熟成できることを念頭においている。そのため、10年近くの熟成を経てリリースしても、市場に出たばかりの頃は、まだワインが閉じているように感じられ、ポテンシャルを十分に味わい切れない場合がある。