シャンパーニュ・ルイ・ロデレールの匠の精神と最高峰のワイン造り

ルイ・ロデレールのフラッグシップ・シャンパーニュ、「クリスタル」


レカイヨン氏は、最高峰のシャンパーニュ造りには、まずはブドウ栽培が大事だと考え、当時社長だった先代からの要請に対し、ブドウ栽培にも携わることを条件として最高醸造責任者に就任した。シャンパーニュ・メゾンとしては例外的な人事だった。

実のところ、ルイ・ロデレールの品質の鍵を握っているのは、240ヘクタールもの広大な自社畑だ。これは、全生産量の約70%を賄うほどで、大手メゾンとしては高い比率である。もともと、ルイ・ロデレールの畑の多くは、グラン・クリュ(特級)、プルミエ・クリュ(一級)といった銘譲村にある。こういった自社畑は、先見性のあった先代たちから引き継いだ至宝であるが、レカイヨン氏が根本からの改善に取り組んだ。

シャンパーニュ地方では、1970〜80年代に大量生産の波がやってきて、多くの農家が、除草剤や化学肥料を使ったブドウ栽培に移行した。これにより、高い収量で収穫されたブドウから効率や生産性を重視したワイン造りがおこなわれ、シャンパーニュの市場の成長に大きな貢献をしたのは事実だが、失うものもあった。

ルイ・ロデレールは、早い段階から畑の改善に取り組み、今ではシャンパーニュ地方で最大のオーガニックやビオディナミ農法の実践者であり、ブドウ栽培においても、この地方を牽引する生産者となっている。


メゾンの地下カーヴには、160の大樽で過去の収穫年のワインである「リザーブ・ワイン」が貯蔵されている。一番古いものは100年を超える。

自分が信じる道をいく

レカイヨン氏にとって、転換のきっかけは、1996年の収穫年だった。天候が良く天からの恵みがあったにもかかわらず、出来上がったワインは期待とは異なり、「何かが違う」と思った。冷涼で雨の多いシャンパーニュ地方では、オーガニックやビオディナミ栽培が難しい。当時は、手間暇かかる栽培方法をする人は皆無で、周りは嘲笑したと言う。

20年以上たった今、時代は変わりつつある。原点に立ち返り、畑に注力し、環境に配慮した持続可能な農法を取る生産者が増えてきている。また、より土地の個性を表したワインを作りたいという意識の高まりもある。

筆者が今年シャンパーニュを訪問したときにも、「ルイ・ロデレールのような影響力のある生産者が取り組むことの意味は大きい。他のメゾンも変わってきている」と、他のオーガニック栽培農家の声も聞いた。

このような栽培方法を取る目的の一つは、ルイ・ロデレールの持つ最良の畑の個性を引き出し、ワインに反映させることだ。なにより、レカイヨン氏自身が長年取り組んだ結果として、より良質なブドウが収穫できることを体感している。栽培方法を転換してから、ブドウの木は、地中深くに根を張るようになり、ブドウの収量が下がり、味わいに凝縮度が増したと言う。


若い苗木の畑は馬で耕作される。

クリスタル:精巧な芸術品

ルイ・ロデレールのクリスタルは、透明のボトルに黄金色のワイン、ゴールドのラベルをまとった見た目にも美しいプレスティージュ・キュヴェだ。1876年にロシア皇帝アレクサンドル2世が依頼したことにより生まれ、透明で平らな底のボトルに入れられたことから「クリスタル」と名付けられた。

その代々受け継がれているクリスタルについてルゾー氏は、「ルイ・ロデレールの持つ最高のシャンパーニュの土地の個性を表現したものであり、奇跡の産物だ」と語る。
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文・写真=島悠里

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