食べる喜びと満足は、身体のどこで感じるのか?

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リラックス効果のあるうま味ですが、その主要成分の一つであるグルタミン酸は、実は母乳に多く含まれています。赤ちゃんが生まれてきてから一番最初に出会い、口にすると泣きやむ味。それは成長しても変わらず、だから、うま味を多く含んだ料理を口にすると、なぜか落ち着きホッとするのです。

では身体のどの部分がホッとしているのか? 脳なのか、心なのか。舌の上の味蕾を通して、脳に美味しいという快楽を感じているのも事実ですが、ここ最近の研究では、この味を感じるレセプターが胃や腸の中にもあると発見され、だからうま味の効いたものを食べると、身体というか心が落ち着くと言われています。

そして、胃や腸から感じるうま味が、自立性神経の抑制などに繋がってるのではないか……。この分野に関しては、今後もっとエビデンスを取り、研究をしていく価値がありますが、料理人である僕の経験値では、煮込みをはじめとする地域に伝わる伝統料理がカギだと考えているので、引き続き、医者や学者など深堀りしていくつもりです。

さて、うま味が大事だとわかったところで、どんな食事を取ればいいのか。寒くなり、身体が温かいものを欲するこの時期は、単純に鍋を囲むのが一番です。隠し味に乾物(椎茸、昆布、いりこetc)を鍋に入れてうま味を引き出し、ゆっくりと熱(火ではなく)を通していく鍋は、ホッとする料理の代表格。手間もかからず、皆で時間も会話も楽しめます。



野菜や肉、魚などの具材からも味が染み出し……そこに季節の柑橘類で作ったポン酢、薬味と言われるような柚子胡椒や紅葉おろし、七味唐辛子があれば、食欲もそそられ、心も身体も大満足です。

師走に入り、仕事や年末行事で忙しい時期は、ついつい心が亡くなりかけてしまうこともあると思います。そんなときこそ、仲間や家族と鍋! 空間と時間と人間が織りなす味を味わうことが、心身への一番の健康へのアプローチです。

ストレスが多い社会では「美味しさ」という脳への快楽も必要ですが、季節や自然の温もりを心で感じることも同様に、またはそれ以上に必要です。

連載:松嶋啓介の喰い改めよ!!
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文=松嶋啓介

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