ウォルマートは最高水準の給与を提示してソフトウェア開発者を採用してきたほか、デジタルコマース技術の導入に多額の投資を行ってきた。テクノロジーの面においてはアマゾンとの類似点も見せ始めている。
求人サイトを運営する米Fountainの最高経営責任者(CEO)によれば、ウォルマートはモバイルアプリを使ったチェックアウトのほか、ビッグデータの分析と人口知能(AI)を組み合わせることで、自動販売やお勧め商品の紹介などを実現。独自のサービスを提供している。また、オンラインとオフラインのショッピングの統合も効率的に進めている。
デジタルコマースとマーケティングが専門のコンサルタント会社、Avionosの共同創業者は、「ウォルマートはすでに成功している実店舗網に戦略的にデジタル部門を追加。総合的な顧客体験を提供している」と指摘している。この戦略は、効果を出し始めているとの見方だ。
米金融市場もそれを認識しており、ウォルマートの株価は過去6カ月間に14.81%上昇している。同じ期間のアマゾン株の値上がり率は、5.99%だった。
不足する3つの要素
それでも、ウォルマートの戦略にはいくつかのものが欠けている。米ロングアイランド大学の最高情報責任者(CIO)で情報技術部門担当のバイス・プレジデントは、その一つがブランディングだと語る。
「アマゾンは低価格の商品と同様、高級品も取り扱うが、ウォルマートは高級ではなく“低コスト”の同義語に当たるブランドだ」
さらに、ウォルマートは物流の面にも弱点がある。一方、アマゾンは物流が全てともいえる企業だ。
「彼らは長年をかけてサプライチェーン・モデルを作り上げできた。ウォルマートがそれと同じ水準に達するまでには、相当に長い時間がかかるだろう」
もう一つの欠けているものは、サードパーティー販売業者のコミュニティーだ。アマゾンが設備投資をしたり、リスクを負ったりしなくても、これらの販売業者はアマゾンが扱う商品の規模と範囲を広げてくれる。
ウォルマートは子会社の数を増やすことによって、提供するサービスを拡大してきた。コンテンツ管理システムを提供するEpiserverの関係者はこの点について、次のように述べている。
「ウォルマートは、eコマースサイトのJet.com(ジェット・ドットコム)や紳士服ブランドBonobos(ボノボス)をはじめとする子会社のブランドと、それらが提供する価値を活用し、独自の、そして他社との差別化を実現した買い物の体験を提供している。それによって、より幅広い顧客に対応するとともにeコマース業務を拡大してきた」
それでもウォルマートの子会社は、アマゾンのプラットフォームを利用して自社製品を販売する独立した企業の広範なネットワークに太刀打ちできるものではない。