ある醸造家の苦悩と悲劇、繊細すぎるワイン造りに驚嘆 本屋でブルゴーニュ #2

下北沢の書店「B&B」で土曜の昼間から開かれる、全18回の「ブルゴーニュワイン講座」でワインの勉強中。

初回はコート・ド・ニュイ北端の「マルサネ(MARSANNAY)」村を学び、第2回の今回は少し南下した「フィサン(FIXIN)」村が舞台だ。

講師はソムリエの資格を持ち、毎年ソムリエ試験対策を行っているという東京・西麻布「スナックだるま」の店主、早坂渉さん。



この講座を主催するのは博報堂ケトルの代表取締役社長・共同CEO嶋浩一郎さん。本講座の舞台である本屋「B&B」の共同経営者でもある。


揃いのオリジナルTシャツで登場。LVNRは「レバニラ」の意味だそう

人口約800人の小さい村で、隣村のフィエ、ブロションのブドウ畑もフィサンを名乗ることができる。1936年に赤白共にAOCの村名「フィサン」と1級畑「プルミエ・クリュ」のアペラシオンとして認定。フィサンのすべてのワインは、生産者が望めばより広域の「コート・ド・ニュイ・ヴィラージュ」の名前で出すこともできるという。

南はコート・ド・ニュイ最大の銘醸地と言われる、「ジュヴレ・シャンベルタン」に隣接するフィサン。この日も3本のワインをいただいた。

ある醸造家の苦悩と悲劇、ドメーヌの再興

この日最初にいただいた1本に関連して、私たちはある醸造家の悲劇を知ることとなった。

・2016 DOMAINE DENIS MORTET – FIXIN VIEILLES VIGNES

華やかで上品な香りが一気に漂う。「香りから違う。上品で凝縮感がすごい。ミネラリーで、酸を感じる。鶏やカレーにも合う1本ですね」と早坂さん。

このワインの生産者名となっているドニ・モルテ氏は父の跡を継ぎ、「ブルゴーニュの神様」と呼ばれたアンリ・ジャイエに師事した一人。ジュヴレ・シャンベルタンを本拠地とし、「ジュヴレ・シャンベルタンのスターになれる」とも言われ、あのロマネ・コンティとも同格に扱われるほどの名声を得た。

しかし2006年、突然の自殺を遂げた。早坂さんは、「非常に真面目な方だったからこその苦しみがあったのかもしれません」と語る。「ミシュランの星を巡って自殺してしまうシェフの苦悩に近いのかもしれません」と嶋さん。

早すぎた死にブルゴーニュファンは悲嘆に暮れたが、その息子のアルノー・モルテが20代半ばで父の跡を継いだ。繊細で上品、より果実味が増し、今や父を超える評価を獲得。ドメーヌの名声が復活した。

畑名ワインとプルミエ・クリュを飲み比べ

この日2本目と3本目は同じ作り手の畑名ワインとプルミエ・クリュ(一級畑)を飲み比べ。なんと贅沢な経験だろう。

・Meo Camuzet F&S FIXIN 2013(2本目)
・Meo Camuzet FIXIN 1ER CRU CLOS DU CHAPITRE 2015(3本目、プルミエ・クリュ)


 
メオ・カミュゼもアンリ・ジャイエに師事。代議士の家系といい、「ブルゴーニュで知らない人がいないくらいの良い作り手です」(早坂さん)。フィサンにはプルミエ・クリュの称号を得た畑は6つぐらいしかないという。

2本目、参加者からは「香り高い」との感想が漏れる。そして3本目のプルミエ・クリュを一口。一瞬後、目が醒めるような濃厚な果実味が広がった。これがプルミエ・クリュなのか。
 


口々に「これはすごい」、「こっちの方が凝縮感ありますね」と参加者。「色はそれほど変わりませんが、より土っぽさ、大地の感じが出ていますね」。早坂さんも納得の1本だ。
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文=林 亜季

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