ビジネス

2018.12.17

藤原副社長に聞く、マツダが「自動運転をやらない」理由

マツダ 代表取締役副社長 藤原清志


私は、これからはお客様が選択をする時代だと思ってる。大事につくられたものこそが理解されるようになるし、私はそこに向けていち早く転換する必要があると思うんですよ。お酒も一緒でしょう。少しでも美味しいお酒が楽しめたら満足。昔は、ネクタイを頭に巻いて飲まないとやっていけない時代があった。今そんな風景あんまり見ないでしょ(笑)

世の中が移り変わる中だからこそ、大事にすべきものがあると思う。だから、たとえ小さい酒蔵でも自分たちの良さを熟成させて、在り方さえ定められれば、絶対に生き残こることができる。腰を据えて、元々持っているものを忘れて「あっちだこっちだ」ってブレないこと。我慢の時代だと思うんですよね。

三宅:全国の酒蔵を回ると、巨大なタンクなどの遊休資産がある蔵を多く目にします。昭和50年代頃まで主流だった「桶売り」(小規模の酒蔵の酒が、大手酒造にタンクごと販売すること)をしていた蔵が、日本酒業界の不振に伴いバサっと切られてしまったんですね。この事態にいち早く気づいて方向転換している蔵がある一方で、そのままタンクだけが残っている蔵もあってこれはやばいな、と。

藤原:それにすごく近い話がある。かつて自動車メーカーの間では「400万台クラブ」が謳われた時代があって、年間400万台以上生産しないと生き残れないよ、という世界だった。それで今はどうなってると思う? 1000万台クラブですよ。これはもう、大変な生産量。

一方で、150〜200万台の少量生産で生きている企業もあります。マツダもそうなんですけど。そして、その中間もある。このような大凡三層に分かれる中で、皆が「これからどうしたら良いのか? どう生きていくべきか?」の決断を迫られている。

新たな市場を探し続けながら大きくなっていくのか、または自分の身の丈にあったやり方で自社の特徴を磨き続けるのか、いずれかに分かれつつある状況だと思うんです。この話は、さっきの酒蔵の話に置き換えても、恐らく構造は同じなんじゃないかと。

機械より、人間中心の自動車設計

三宅:でも、マツダさんは自動車産業で闘っているという感じがあまりしなくて。

藤原:(爆笑)

三宅:僕は、日本酒業界のこれからの在り方をマツダさんの中に見るような気がしています。というのも、ひしめき合う日本酒市場の中で戦い勝つことだけを考えていたら、どこかでつまずいてしまうと思うんですよね。

藤原:こっちに向かえば市場がデカイとか考えずに、何を大事にするかを第一に考えれば良いんですよ。マツダの場合は、機械中心でなく人間中心。例えば、車は座っている時間が長いですけど、そのせいで身体を壊してしまうっていうのはおかしな話なんですよ。

人間のためにどうしたら良いかを考えれば、自然とそっちの方向へ向かう。そうしたら、お客様を必ず笑顔にすることができる。同時に他のエスタブリッシュされたブランドとは違う独自の特徴が作れるとも考えていて。だから市場があるかないかを考えるのは後。市場は後からでも作れるんだから。


「人間中心のクルマづくり」のために理想的なドライビングポジションを惜しみなく追求。シートの座り心地の良さをはじめ、あらゆる操作ユニットがドライバーに正対し体を捻らなくて良いため、リラックスできて体が疲れにくく、何より安全に運転を楽しむことを可能にする

三宅:確かに。一回座り心地の良い車に乗ってしまうと、もう他は乗れなくなりますね。

藤原:そうそう。そうすると、自ら選ぶようになるよね。そこに至るまでの長い道のりを歩み続けることが、ブランドの特徴を創り、価値を決めるので、そこはずっと曲げずに行くこと。

三宅:ビジネスを考える一方で、自分たちが大事にしたいものを忘れてはいけないですね。

藤原:ビジネス方面に寄り過ぎてしまうと、今応援してくれてる人々の興味はなくなってしまうと思うよ。きっと彼らはビジネスより先に「どうしたいの? どう在りたいの?」を大切に考えているはずだから。そして、私もそのような想いに賭けています。

連載 : #醸し人
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監修=谷本有香 インタビュー=三宅紘一郎 校正=山花新菜 撮影=藤井さおり

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