ビジネス

2018.12.11

いま、経営者に求められるのは「中長期の視点への転換」


「長期投資家」からの問い

企業がESG課題に取り組むに当たって、注意すべき点がある。CSR活動などが代表例である。社会の公器である上場企業が果たすべき責任への取り組みは中長期のブランド価値に寄与し、ステークホルダーからの共感になり得るが、企業の規模や業種によって取り組み方は画一的でなくていい。

ましてや、全てを企業価値に紐づくESG情報と位置付けるべきではない。会社の規模や業界によって開示すべき情報は違い、単にA社とB社を比較しても意味がない。ESGの開示項目は多岐にわたるので、身の丈に合った課題から取り組めばいい。

例えばグローバルな自動車メーカーであれば、CO2削減ルールの動向や米中貿易戦争の行く末などにも留意すべきだろう。繰り返しになるが、投資家も経営者も世の中の動向を読み解く力が重要だ。

「ESGが求められているから、取り組まなければ」。この発想では、本来の目的の企業価値の向上には結びつかないだろう。国連が提唱するSDGsに取り組もうとする日本企業は多いが、一体どれだけの企業がSDGsのテーマ(=社会課題)へのイノベーション(=解決)に本気なのか。

「社会課題の解決に向けたプロジェクトとして、本腰をいれた議論や検討をしていますか」と問いたい。特定のテーマに絞って本気で取り組み、失敗も成功も、そのナレッジをグローバルに共有しながら解決しようとする姿勢が求められる。基礎研究と同じで50年とか100年といった長期スパンで考える必要があるはずだ。

人材、金、そして時間もかけなければイノベーションは生まれない。グローバルなニーズを汲み取り、大きな投資だとしても、それ以上のマーケット価値で返ってくるという信念のもとで大胆に勝負する経営者の姿勢や目的達成へのコミットメント、そして大局観が求められる。自分たちの強み(戦略資産)を活用し、新しい市場を開拓すべきだ。

こうした挑戦が中長期的な価値の創造につながる。この姿勢こそが本質的に求められている。

経営は積み重ね。先代からのバトンを受け継ぎ、しっかりと後世に託していくもの。経営者になることがゴールではない。そこからが、スタートなのだ。私たちは世の中にどのように貢献できるだろうか。事業環境が変化する中で、積み重ねてきたものを大切に、今ある資源を有効活用しながら挑戦する時だ。


中川博貴◎慶應義塾大学経済学研究科修士課程修了。フィスコIR取締役COO。日本証券アナリスト協会検定会員。IR専門誌「フィスコファイナンシャルレビュー」編集長。今夏、企業と投資家をデジタル上でつなぐ「IR専門プラットフォーム FISCOEyER」を開設。近著に『ザ・キャズム 今、ビットコインを買う理由』。

文=中川博貴(フィスコIR)

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