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2018.12.12

「絵を描くことは、戦いだった」若きペインターが見る日本のアート業界 #NEXT_U30

現代アーティスト 皆藤齋


──最近ニューヨークに3ヶ月間行かれていたそうですが、日本と比較して何か違いは感じられましたか?

めちゃくちゃありましたね。日本とのカルチャーの差があまりにも大きすぎて、絶望しました。

まず、ニューヨークは美術館の数が本当に多く、1つ1つのクオリティがものすごく高い。しかも、週に1度はどこかの美術館が入場を無料にしていて、遅い時間まで開館している。つまり、お金のない学生や帰りが遅いビジネスパーソンなど、どんな人でもクオリティの高いアートに触れられる環境が整っているんです。

対して日本では、美術館で絵画を扱われる数自体が少ない。どの美術館に行っても、インスタレーションやビデオアートばかりで、絵画の作品展は少ないんです。長い歴史を見ても、美術館は社会に対するメッセージを投げかけるための作品展を行ってきていますが、こと日本においては、絵はその果たさないと思われているのではないか、と感じています。

また、アートを学ぶ環境も日本とは大きく異なります。日本の大学は学費がどんどん高くなっていますが、私のフランスの友人は学校でタダでアートを学んでいるそう。作品の値段も、だいたい日本の3倍くらいがつきます。私の作品の値段をその友人に言ったら、「安すぎるんじゃない?」って言われました(笑)。


Knife Bird Longing 2018 652 × 530 mm oil on canvas

──その環境下で、日本のアーティストはどう活動していくべきだとお考えですか?

アーティストは、展示会を開いて買い手を待つだけの時代は終わったと考えています。

というのも、日本のギャラリーにおけるアーティストの身分はすごく低いですし、そもそもギャラリーの数が少ない。しかもギャラリーに入れれば安心ではありません。日本国内にはまだまだアートの買い手は多くないので、海外のアートフェアに出してもらったり、海外とのコネクションを作ったりしてもらわないとほとんど意味が無いわけです。

であれば、自分でSNSを頑張ったり、英語を勉強して自分でコネクションを作ったり、自分でギャラリーを開いて美学に共感できるアーティストと一緒に海外のアートフェアに出るほうがいいかなと。

私の友人に自分でギャラリーをやっている若いアーティストがいるのですが、彼は英語が話せないのに、「なんとかなるっしょ!」というテンションで12月にマイアミで行われる大きなアートフェアに参加するそう。彼のような人たちを見ていると、自分たちでやれることはたくさんあるし、もうアーティストが待っているだけの時代ではないと私は思います。

──皆藤さんは、これからどんな活動をしていきたいですか?

自分のアーティスト活動はもちろん継続していきたいです。それを続けつつ、同世代の日本のアーティストや海外のアーティスト同士を紹介したり、繋げたりする役割も担っていけたらと。

先月、私の友人が運営している中野のギャラリーで、展示を企画させてもらったのですが、その時に一層その思いが強くなりました。

日本には作品の作り手は多いですが、アートマネジメントをする人はとても少ない。スペースが無いせいで、そもそも作品を見てもらう機会がないアーティストもたくさんいます。自分がそういうことをできる立場にあるのであれば、楽しみながら取り組んでいけたらと思っています。



かいとう・いつき◎1993年 北海道札幌市生まれ。現在はアンチモラルや羞恥心を孕んだナルシシズムなどに興味を抱き、プラスチックベルトに自らをしばりあげる男や、巨大女破壊神のアマゾネスの架空の神話などをモチーフにし絵画を制作している。

文=Forbes JAPAN 編集部

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