──イノベーションを起こすうえで失敗できないという悩みも聞きます。
失敗を避けようとすると、観察が疎かになりがちです。したがって、失敗に失敗しないことのほうがはるかに重要です。対話という概念そのものに、自分がいかに物事を狭く見ていたのか、つまり、失敗していたのかを知るという意味が含意されています。
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しかし不要な失敗を避けるためには、文脈をよく観察することが必要です。当該の企業にとっての失敗は何なのかをよく観察して事に挑むことが重要です。
「数字を求められる場合、それをきちんと示していくにはどうしたらよいか?」というように、利害関係者の文脈、とりわけ権限を持つ立場の人が何を恐れ、彼らがどうしたら自分の考えを受け取ってくれそうかをよく探っておくことが大事なのです。決して迎合するということではありません。現実に即して実践的に行動するということを指しています。
よくないのは、現実に向き合わず、失敗していることに気づかないことです。失敗に失敗しているとも言えます。なんとなく成功し続けてくだらないものができるのだけは避けたいですね。
失敗を経て生き残るとは、適応課題を乗り越えていくということだと思います。問題をそらされたり、攻撃されたりというリスクは理解しておく必要がありますが、無理やり新しいことをやらなければならないと考えてはいけません。会社にとっても自分にとっても必然性がないものをやってもしょうがないのです。
こうしたことをひたむきに取り組み、本質は何なのか自分なりに突き詰めて考えていくなかで、本当に意味のある課題を見つけることが大事だと思います。
埼玉大学大学院人文社会科学研究科准教授・宇田川元一氏(本人提供)
連載 : 世界を目指す「社内発イノベーション」事例
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