ビジネス

2019.01.02 10:30

日本の製造業復活へ IoT家電の先駆者がパナソニックで仕掛ける挑戦


岩佐:話を炊飯器に戻しましょう。従来型メーカーの一般的な考え方は、炊飯器を製造している事業部が「炊飯器が売れなくなるかもしれないから、サブスクリプションモデルはやめてくれ!」という話になるんですよね。サブスクリプションモデルでの成功事例がないから、踏み出せない。

ただ、パナソニックGが面白いのは、社長以下の経営幹部がこういったトランスフォーメーションについてやる気になっていることなんです。サブスクリプションモデルなり、プラットフォームモデルなりに大幅にシフトした結果、もしかしたら既存事業がひとつ潰れてしまうかもしれない。それでもそこに未来の売上・利益があるなら良い、と。抜本的に変えたいと経営幹部が本気で思っているんですよね。

コト消費とマーケティング

石黒:最後の質問なのですが、コト消費が進むと、メーカー企業はより顧客と繋がることが可能となります。そうなることでマーケティングのあり方はどのように変わっていくのでしょうか?

岩佐:もっともっと顧客と直接、繋がるためにメーカーのサブスクリプション化は増えると思っています。これまでメーカーの顧客は、エンドユーザーではなく家電量販店でした。それが、ようやくエンドユーザーと繋がることが可能となり、これからどんどん更に加速していくと思います。

ウェブでは取れない情報が家電から入手することが可能となり、メーカーはセカンドパーティデータの提供主としての存在感も大きくなってきます。ターゲティング精度は劇的に向上し、シーンやシチュエーションを絞り込んだサービスや広告の提供が可能になります。

須川:そうですね。スマホの場合は、ユーザーがアクションした結果の行動データしか残らない。行動データだけでは、背景のユーザーの意思がわからない。その行間をどう把握するか、それが大事なんですよね。

岩佐:マーケティング会社が、機器メーカーと組んで事業を行うということもあり得ますね。行動データの入手はサブスクリプションモデルとも相性が良いんですよね。

自身の所有物に対しては、そこから得られるデータを渡したくないと思う人が多いのですが、レンタルやシェアリングでは、安心・安全のためにもデータを共有することは抵抗ないですよね。緩やかにかもしれないが、大きな流れとしてはこうなると思います。

【 Shiftallに習え!石黒&須川のワンポイントアドバイス!】
 
・消費者の意識は「モノ」から「コト」へ、「所有」から「共有」へとシフトしている。シェアリングエコノミーやサブスクリプションモデルへの抜本的な事業変革が成功への鍵となる。対価もモノからコトに比重を移す。

・IoTによって、購買行動データだけでなく、利用状況や購買の背景にあるデータの入手が可能に。シーンやシ チュエーションを絞り込んだサービスや広告戦略を構築することが重要。


岩佐琢磨◎1978年生まれ、立命館大学大学院理工学研究科修了。2003年からパナソニックにてネット接続型家電の商品企画に従事。2008年より、ネットワーク接続型家電の開発・販売を行なう株式会社Cerevoを立ち上げ、20種を超える自社開発IoT製品を世界70の国と地域に届けた。2018年4月、新たにハードウェアを開発・製造・販売する株式会社Shiftallを設立し、代表取締役CEOに就任。くらしの統合プラットフォーム「HomeX」、集中力を高めるウェアラブル端末「WEAR SPACE」などパナソニックの新規事業に協力すると同時に、自社独自の新製品を2019年に発表予定。

須川敦史◎ネットイヤーグループ マーケティングクラウド事業部長 大手電機メーカーにて、IT アーキテクト・エンジニアとしてアプリのサービス企画・UI 設計・プログラム開発業務を担当後、2005 年、ネットイヤーグループ株式会社に参画。戦略プランナー・UX デザイナー・IT アーキテクト・データサイエンティストなど幅広い役割を兼務 しながら、大手企業の統合的なデジタルブランディング・サービス成長支援業務に従事。18年よりマーケティングクラウド事業部長を務める。大阪大学卒。

文=石黒不二代

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