アマゾンの本格的なスマート家電市場への参入を受け、世界に誇る技術を持っている日本の家電メーカーはどう戦っていくべきか? スマート家電分野で出遅れ感のある日本の製造業復活を賭け古巣パナソニックGグループ(以下、パナソニックGG)で新たな挑戦を始めたIoT家電の先駆けである「Cerevo」の創業者、岩佐氏にお話を伺いました。
なぜ、独立しようと思ったのか?
石黒:まだ、世の中にIoTという言葉が出てくる前の2003年に新卒で入った松下電器産業(現在のパナソニックGG)を辞めて、このIoT領域で起業されたいきさつを教えてください。
岩佐:そうですね。私がCerevoを起業した時代はIoTという言葉はなくネット家電と言っていました。松下電器産業に入社時には、大企業はR&D予算もあるし人もいるので、0を1にするような製品が作れるという認識を持っていました。
しかし、特に私が入社した2003年は、3大都市圏で地上デジタル放送が始まった「地デジ特需」の年で、パナソニックGなどの大手家電メーカーにとってV字回復の時代だったため、0から1よりも70を100にする仕事が求められた時代でした。機能や先進性より、シンプルで使いやすく安価な求められていた側面もありました。
石黒:まさに日本のものづくりが得意とするところでしたね。
岩佐:ちょうどそのころ、Web2.0という言葉が流行り、76、77世代によるスタートアップが盛り上がり見せていました。石黒さんやサイバーエージェントの藤田さんなどIT起業家が出てきたのが2000年前後で、76、77生まれはその次の世代になりますね。
かたや「ITで世界を変える!」といった気概を持った起業家たちが出てきて、自分のまわりにもそのような知り合いが増えてきたころ、自分は70や100のほうを向いていたんですが、「やっぱり0から1がやりたい、インターネットx家電で勝負したい!」という気持ちが沸々と湧いてきました。
石黒:それで大企業を飛び出し起業したということですね。実はここにいる須川も元々、大企業の出身で、ユーザーエクスぺリエンス(UX)がやりたくてネットイヤーグループに入った、まさに異色な人材なんです。現在はデータ&テクノロジーを駆使したマーケティング戦略部の部長として活躍してくれています。
須川:私がネットイヤーグループへ転職したのも2005年なので、まさに岩佐さんと同じWeb2.0世代です(笑)。
パナソニックGGに戻る理由と大企業の葛藤
石黒:「Cerevo」は、今年の4月に新会社「Shiftall」を設立し岩佐さんが代表に就任。パナソニックGに「Shiftall」の全株式を売却し子会社化しました。この結果、岩佐さんはパナソニックGGに戻ることになったのですが、その背景について教えてください。
岩佐:「Cerevo」の次の成長のために、資金調達先を2017年の頭ぐらいから探していて、夏ごろにパナソニックGへ相談にあがったのがそもそものきっかけです。その頃、パナソニックGサイドでは大企業としての葛藤があったようです。
僕が出た時代に求めていたものと正反対で、荒削りでも良いので、まずは世に出して、そこからモデルチェンジしていく。ソフトでいうところのアジャイル開発に近い感じですね。それが今の潮流ですから、メーカー企業は変わらなくてはいけないし、パナソニックGとしてもそっちにシフトしていきたいと考えていたんです。
ただ残念ながら、これまで70を100にする仕事を得意としてきた人たちにとって0から1、0から10の仕事への変化は非常に難しいんですよね。パナソニックGとしては、そのmissing piece(欠けた部分)を埋めることで家電、IoTの世界でゼロイチを実現したいと考えていたのです。
三方よしではないですが、私を中心とした組織でお手伝いすれば実現が出来るのではと考え、今回のスキームを提案したところ賛同して頂けました。
日本企業が目指すIoTは、アメリカのそれと別物?
石黒:さて、少し話題を変えて、多くの日本企業は既存の事業に将来がないので何かしらトランスフォーメーションをしたいと考えています。日本企業が目指すべきIoTとはどんなものなのでしょうか?
岩佐:日本が競争力を示せるのは、お堅い領域だと思っています。エンドユーザーは、Quick and Dirtyでも直ぐに飽きてしまいます。頭のなかにイメージしてほしいのは、空港や渋谷の新しいビルとか、もう少し小さいところではモノレールとか、モバイクやオッフォなどのシェアバイク。
それらにIoTががっつり組み込まれていて、IoT、AIによって配車が自動化され、本数が勝手に増減するなど、こういった分野は日本が得意とするところだと思います。超ウルトラ自動化されたビルや次世代交通システムといった、お堅い領域で勝負していくのがあっていると考えています。