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2018.12.10

なぜアフリカでモノづくりに挑むのか? 日本人起業家母娘が目指すもの


本取材の目的の一つは、RICCI EVERYDAYの商品が作られ、販売されるまでの過程の追跡だ。資材調達はものづくりの重要工程の一つ。同社商品の主原料は、いわゆる「ワックス・プリント」と呼ばれるカラフルな布。COO仲本がガーナなどの西アフリカに布を買い付けに行くこともあるが、基本的にはカンパラのダウンタウンで、布やパーツを買い付ける。

資材の現地調達は、RICCI EVERYDAYのものづくりに対する指針の一つ。究極的に外国人である仲本がいなくなったとしても、ものづくりが継続するために、現地調達にこだわる。外国人リソースに依存せず、現地人が主体となってビジネスがまわる、持続可能なしくみをつくることは、歴史的、構造的に外部に依存しつづけてきたアフリカが、自らの力で発展し、繁栄するためにも無視できない要素だ。

Davisの案内で、布やパーツを販売する店や、縫製を行うテイラーなどが集まったダウンタウン内の雑居ビルを回った。隣国ケニアのナイロビのダウンタウンと比べて、カンパラのダウンタウンは、ミニバスやタクシー、バイクや人で賑わっているものの、荒々しいような雰囲気は少ないように感じた。一方、インフォーマルなベンダーも含めて、ビジネスは活気立っている。


布や資材のショップが軒を連ねるビルの上階にはテイラーがミシンを並べる。さらに上階は、出稼ぎ就労者などが宿泊できるようなホステルがある

アフリカ各国など、いわゆる途上国経済において、インフォーマルな経済活動がGDPなどに加算される統計データに繁栄されていないこと、またインフォーマルな経済活動がもつ潜在的な経済活動の規模は、研究などで発信されつつある。しかし、インフォーマルな経済活動の具体的な実像は認識されきれていないと専門家は指摘する。

例えば、途上国の新興市場におけるインフォーマル経済などの研究を行うストラテジスト、ニティ・バーン(Niti Bhan)は、2017年、タンザニアのアルーシャで開催されたTEDグローバル会議において、「インフォーマル経済の隠れた機会」と題したスピーチをした。

彼女らの調査によって明らかになったのは、ウガンダとケニアの国境付近の町の、路上の木の下で古着を販売するといった一見取るに足らないようなベンダーなどが、年間ベースにして2万ドル(約220万円)相当の在庫の買い付けを行い、売上記録などの帳簿もきちんとつけているということだ。

バーンによると、こうしたベンダーは、事業に必要な適切なサービスにアクセスできない状態にあるという。50-100ドルといった小規模融資を行うマイクロ・ローンは、彼らには無意味だ。一方、木の下といったような場所で事業展開を行っていては、フォーマルな銀行ローンにアクセスすることも難しい。

RICCI EVERYDAYが買い付けを行うようなショップは、建物内の区画内にある正規ベンダーだが、こうしたベンダーたち自身の日常は、路上でスナックを販売するようなベンダーたちとも繋がっている。現地調達の方針は、直接的にも間接的にも現地の経済発展に寄与しているはずだ。

「マダム・チズ」とスタッフの信頼関係

直営工房があるのは、ダウンタウン・カンパラから車で20分ほどの距離にあるキチンタレ(Kitintale)地区の住宅街の中。門を入った右手のコンクリートの壁は、赤や黄色にペイントされている。これは、店のサインや広告などアフリカの街並みでもよく見るスタイル。

敷地内には大きな裏庭もある。工房内は、ミシンが並ぶメインの縫製部屋のほか、裁断や品質管理を行う部屋、事務所や台所なども完備。スタッフが交代で昼食を準備する。

工房では、2016年の操業開始当時からのスタッフ、生産管理長のスーザンに話をきいた。以前も縫製の仕事に従事していたという。現在計13名いる工房スタッフを取りまとめ、注文に基づいて生産計画を策定、実行する。

前の職場に比べ、働く環境が大幅に改善されたという。以前の勤務先では、給与の支払いが2-3ヶ月間滞るということもざらで、残業も多かった。現在は、週6日、1日8時間労働という規則的な勤務スケジュールで、給与支払いも定期的、給与水準も高く、残業もない。2人の子供の学費の支払いが滞るという心配もなくなった。
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文=ナカタマキ 写真=ジャン・デイヴィス

この記事は 「Forbes JAPAN 新しい現実」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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