ボルボ最後の「エンジン車」がクルマ好きにはたまらない理由

ボルボ 新型S60




それが、吉利汽車による買収で一変した。

「最初から吉利汽車は何もうるさい事は言わなかったし、ああしろこうしろと命令されなかったのが良かったと思っています。好きなようにクルマを作っていいと言われた」とクローナ主査。この買収で、ボルボのデザイナーやエンジニアに眠っていた創造力が炸裂した。

吉利汽車のリー会長が、ボルボを中国のブランドにしようと思わなかったのが英断だと思う。「ボルボには、スウェーデンのブランドとしてそれなりの価値があるから」というのが会長の弁だ。

「デザイン面と機能面が、ついに自由になりました」とクローナ氏が微笑む。そのおかげで、2010年から全く新しいアーキテクチャー(土台、電気系、エンジンなどを含む)が開発された。そして、デザインだけではなく、燃費や性能に優れている4気筒のエンジンも開発できたという。

今回乗ったバージョンは、最高出力316hpを発生する「T6」の「AWD R-DESIGN」。アクセルフィールはとてもスムーズで、ターボラグは全然感じない。0−100km/hの加速タイムが5.7秒を記録するT6は、まるでV6のような力強い加速感と太い低中速トルクをもたらす。

この手のパワフルな4WDセダンは多少アンダー気味だと思われがちだけど、決してそうではなかった。ステアリングのフィーリングは自然で適度な重さ、またはコーナーでトレースしたラインを保ってくれるニュートラルステアが嬉しい。乗り心地はしなやかなわりには、コーナーでの姿勢はフラットでボディロールは少なく、ブレーキ性能も文句なし。

内装も、外観に負けないほど美しくて質感が高い。ボルボは、独自の高級感の漂う室内にクリーム色などの本革や、宝石のようなレバーやスイッチ類を使用している。



しかし、一つ気になったのが、センターコンソールの大画面。オーディオやエアコンなど、ほとんどの操作がその中に入っているので、例えば、空気循環にしたいときでも、スマホのように一回ボタンを押してから、スクリーンを一回スワイプしなければ必要なアイコンが出ない。だから、慣れが必要だ。ま、すぐに使い慣れるだろうけど。

とにかく、S60はドライバーの言うことを聞いてくれるので、安心して乗れて、ドライバーに自信を与えてくれる。それは、クローナ主査が狙った走り味だ。いや、それは中国の親会社が自由に作らせてくれた、ボルボの最高傑作セダンだ。

国際モータージャーナリスト、ピーター・ライオンが語るクルマの話
「ライオンのひと吠え」 過去記事はこちら>>

文=ピーター ライオン

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事