リウは2013年、2人の共同創業者とともに、エアテーブル(Airtable)を創業した。彼らはデータベースを統合したスプレッドシートの開発を目指し、試作品の完成までに3年を費やした。
3人はコラボレーション型ソフトウェア理論に関する学術論文をじっくり読み、「Node.js」のアーキテクチャと格闘しながら、ウィンドウが開く速度にこだわった。日本人グラフィックデザイナー原研哉の著作『白(しろ)』(訳題:White)と出会ったリウは、数カ月間かけて色と空白部分との相互作用について研究した。
2018年の収益は前年比400%増
黒のレザージャケットを羽織り、シャツからスラックス、靴に至るまで黒ずくめでエアテーブル本社(サンフランシスコ)に佇むリウ。彼のミニマリスト的な出で立ちは、スティーヴ・ジョブズを思わせる。iPodの白にこだわり続けたジョブズは、「新製品のリリースを焦るくらいなら、我々はリリース時期を延期する。そうすれば考える時間ができる」とかつて語っている。「アイデアを“煮詰める”発想だ」と。
現在、エアテーブルは“煮えて”いる。リウの開発したクラウドベースのソフトウェアは、ネットフリックスから小規模なNPOに至るまで8万の組織に採用されている。ほぼ口コミで広まったエアテーブルの2018年の収益は前年比400%増の2000万ドル(約23億円)と、順調に伸びている。
一見したところ、グーグル・スプレッドシートの進化版のように見えるエアテーブルは、画像、ドキュメント、動画、URL等のデータを保存可能な統合型スプレッドシートだ。各データはシートのセル内へドラッグ操作で保存し、クリックで開くことができる。
グーグル・スプレッドシートが10人程度の小規模チーム・プロジェクト向きなのに対し、関連データベースを統合したエアテーブルは、各地に分散した数千人規模の従業員がパソコン、スマートフォン、タブレット等を通じて同時に利用できる。
製品価格はいわゆるフリーミアム・モデルで、基本的なサービスは無料で利用できる。登録ユーザー(月額10または20ドル)には、高度な機能の使用と大容量のストレージ・スペースが提供される(法人向けパッケージは1人あたり60ドルから)。ユーザーの6人に1人が課金ユーザーだ。
エアテーブルには著名企業のファンがいる。ネットフリックスは、制作工程管理に同ソフトウェアを導入、アトランティック・レコードは、プロデューサー、作家、パフォーマー間のコミュニケーションを管理するためのプログラムを作成、早期にエアテーブルを導入したWeWorkでは、数千人の従業員が建設プロジェクトの管理・計画に同ソフトウェアを利用している。
ファッションブランド、カルバン・クラインは生地調達のオペレーションを円滑にするために導入。かつてはデザイナー、プロジェクトマネジャー、海外のテキスタイル工場との間で数千件のメールやオフラインのスプレッドシートを何とか処理しなければならなかった。現在は、中心となるアプリケーションがカレンダー、画像、生産コスト、製造のリードタイム、輸送スケジュールを管理してくれる。同ブランド親会社PVHは、別のブランドにもエアテーブルを展開している。