子供の頃、遠足の前日に眠れなかった思い出を持つ人は多いだろう。大人でも楽しみにしていたコンサートやデートの前日に眠りが浅くなるのは誰もが経験することだ。人は、嬉しいときや楽しいときにこんな反応をする。
以前、ストレスに関する西洋医学の論文を読んだ。その中で投資をする人がどのようなストレスを受けるかを分析していた。結果は予想外のものだった。
普通なら、投資で利益が出ればストレスがなく、損失が出たらストレスがかかると思われがちだ。だが結果は違う。株価が下がるとストレスを感じるのは予想通りだが、株価が上がってもストレスがかかることが分かったのだ。当時は「株価が上昇していく高揚感がストレスになるのかな」と思いながらも、実感がなかった。
しかし、東洋医学を学んでからは、儲かってもストレスを感じる理由が理解できるようになった。
東洋医学では、喜びの感情が強すぎたり、その状態が長く続いたりすると身体に悪いと説く。五行説の詳細についてはここでは触れないが、東洋医学のいう五臓のうちの「心(しん)」に問題が生じるのだ。
現代医学は人間の感情を「ポジティブストレス」と「ネガティブストレス」に区別する。喜びの感情や笑うことなどはポジティブストレス、悲しみや怒りの感情はネガティブストレスに分類される。一方、東洋医学では、感情の種類に身体に良い悪いといった区別はないものの、長く続くのが良くないとしている。喜んでばかりでも、悲しんでばかりでもなく「適度に悲しめ、でも長く悲しみにとどまるな」と説く。
投資を例に話を戻すと、利益が上がっても、下がってもストレスになるということだ。
私はこれまでに、利益が出ているケースでも、損失を出しているケースでも、投資をやめて健康的になり、かつ収入が上がった患者を山ほど診察した。一般の人が思う以上に、投資は精神的に負荷がかかるようだ。
では、どうすれば投資時のストレスを軽減できるのか。そのヒントが前出の論文にあった。
そこでは「独り勝ちするのではなく、平等に収益を分け合えばストレスはない」と説く。一人で利益を独占するのではなく、出た利益を分配すると全体のストレスがなくなるという。これは人間のDNAには助け合い、平等に快楽を感じる性質が刻み込まれているからだ。このDNAのおかげで人類は食料の乏しい氷河期を乗り切れたのだという。
独り勝ちでストレスを感じるのは、未来の株価を予測するという不確実な要素を持つ富についての話だ。努力が結果を左右する分野なら、独り勝ちはストレスを生まない。
死ぬほど経済の勉強をして、努力した結果として富を得たのならストレスはないはずだ。偶然の産物を得ても結局はそのことがストレスになってしまうはず。健康的で持続する富は、努力の結果が生むのである。
さくらい・りゅうせい◎1965年、奈良市生まれ。国立佐賀医科大学を卒業。聖マリアンナ医科大学の内科講師の他、世界各地で診療。近著に『病気にならない生き方、考え方』(PHP文庫)。