燃料税だけではないパリ暴動の根深さと「不安しかない」未来

(2018年12月1日撮影、Photo by Getty Images)

燃料増税への反対を発端としてパリで暴動が発生してから2週間以上が経過しているが、事態が鎮静化する兆しはない。フランス政府は増税断念によりデモの勢いを押さえようと試みたが、そもそもマクロン大統領に対する風当たりの強さは燃料税増税に始まった話ではない。

これまでも年金受給の年齢引き上げ、雇用規制の緩和、各種公共施設の民営化、徴兵制の復活などを受けて不満が鬱屈していたと言われ、より生活に身近な燃料価格の高騰をトリガーに国民感情が爆発したというのが正確な状況整理になる。根底には低所得者層における「不平等」への反意があると見受けられ、これがグローバルな潮流である以上、簡単に押し返すことはできないだろう。

2017年5月に大統領選挙に勝利した際、60%以上あった支持率は今や30%を切り、調査によっては20%割れを臨むものも見られる。燃料税を引き上げただけでこうはなるまい。元より極右候補を敬遠した結果による「敵失の人気」と揶揄されていたが、正鵠を射た指摘だったと言えそうだ。



大国としての存在感を失ったフランス経済

現在の混乱を目の当たりにすれば、増税断念のような応急処置もやむなしという側面はある。だが、安易な懐柔策に出る前に、そもそもマクロン政権が何故、民衆の怒りを買う緊縮政策や構造改革に踏み切らなければならなかったのかについて理解しておく必要がある。

細かな論点を挙げればキリがないが、やはり危機後の10年間でフランス経済が、とりわけドイツ経済対比で凋落したという事実があり、各種構造改革はこれを克服するためのアクションだったことを忘れてはならない。政治はともかく経済に関しては独仏2大国というのが憚られるほどの差がついている現実がある。

下図に示されるように、金融危機の前後で若年失業率(15~24歳の失業率)が改善したのはドイツだけであり、その他の国は全て上昇した。



この中でフランスに目をやると、若年失業率は2007年から「南欧並み」であり、その水準も10年で僅かに上昇している。他の南欧諸国の急上昇に比べれば恵まれているように見えるが、比較対象がPIGS(ポルトガル・イタリア・ギリシャ・スペイン)という時点でドイツと並べることは憚られる。

元々両国の経済に関しては差が存在したが、この10年で不可逆的な差がついたという印象はある。野心の強いマクロン大統領がこの絶望的に大きい格差を覆そうと積極的な改革策に打って出ようとした結果が今のパリ暴動と言える。
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文=唐鎌大輔 写真=Getty Images

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