女性の産後復帰を阻む「職場での搾乳」問題

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米国の企業社会にさまざまな性差が存在するのは周知の事実だ。米国では、白人女性が稼ぐ額は男性の78%で、有色人種の女性になるとその額ははるかに少ない。また報酬調査サイト「ペイスケール(PayScale)」の調査からは、男女のキャリアは比較的平等な立場でスタートするにもかかわらず、キャリア中盤で役員レベルに昇進する確率は男性の方が女性よりも70%高いことが分かっている。

ブルームバーグが10月に掲載した記事では、女性のキャリアを阻害するもう一つの要素が示された。それは、子どもを母乳で育てる女性が、職場で搾乳する必要があるということだ。

多くの女性が子どもに母乳を与えることを選んでいる。そして多くの女性は、職場復帰後も同じように子どもに母乳を与えることを選んでいる。子どもに健康になってほしいと思うのは当然のことで、母乳育児が家族の健康計画の一環なのであれば、社会はそれを支援すべきだ。つまり、子どもに母乳を与えながら働くことを希望する女性には、それが実現できるよう支援すべきなのだ。

しかしデータによると、母親が働く強い社会と、子どもに母乳を与えたいという母親の希望は、米国の企業社会で必ずしも尊重されていないようだ。ブルームバーグの記事では、米国社会学レビュー(American Sociological Review)に2012年に掲載された研究結果として、子どもに少なくとも半年間授乳した女性は、授乳期間が半年未満だった母親に比べ、その後の収入が顕著に下がることが示されたと指摘している。

この事実には多くの要素が関わっているが、問題を解決する方法としては3つ考えられる。それは、搾乳のための十分なスペースの提供、スティグマ(悪いレッテル貼り)を減らすための企業文化変革、そして母子を最優先する形での育児休暇制度の改善だ。

乳児を母乳だけで育てることにかかる時間を考えれば、授乳はそれ自体が一つの仕事だ。米国小児科学会(AAP)は、子どもが6カ月を迎えるまで食事は母乳のみに限ることを推奨し、1歳になるまで続けるのが理想的だとしている。1年間の授乳時間は控えめに計算しても1800時間となる。これを週40時間勤務で3週間の休暇が付く、年間1960時間の仕事と比べてみよう。授乳がそれだけでフルタイムの仕事だと言うことも、これで信じてもらえるはずだ。
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編集=遠藤宗生

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