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ここ数年の業績を見れば、順風満帆であることは間違いない。しかし、同社の成功はあらかじめ約束されたものではなかった。

河合が社長に就任する前年の15年4月、同社は米・アプライドマテリアルズとの間で進めていた経営統合を、米国司法省との隔たりを埋められなかったために断念した。

これを受け、当時は多くのアナリストたちが半導体製造装置市場の成長性に危機意識を抱いた。それに反して、河合だけは「エキサイティングな市場予測をしていた」と言う。なぜ、そのような予測ができたのか。「変化の激しい半導体業界では、10年前にも同じような不安がささやかれていました。昔から『半導体の微細化は止まる』『すでに市場は成熟した』と言われ続けてきたんです。しかし、実際にはどうなったでしょうか。いまや半導体チップの線幅は、煙の粒子の10分の1以下である10ナノメーター以下になっています。

人間には『より便利に』『より豊かに』という欲求がある。それがある限り、技術革新は止まりません。『世の中は進化していく』という考え方に間違いはないんです」

人間の本質を見据えて未来を描く

業界の誰もが不安を語る中で河合が楽観主義を貫けたのは、もちろん持ち前の楽観的な性格のためだけではない。“人間の欲求そのもの”を見据え、人間の本質を捉えた未来を見通したからではないだろうか。

こうした河合のポジティブ思考、先を見通す力に自信を与えているのが「パートナー企業や社員との会話」だ。

「半導体業界は、上位6社が全体の7割を占める寡占化が進んでいます。そうした中、我が社は業界で世界最大の装置出荷実績があり、すべてのお客様から絶対的な信頼を得ています。

我々のお客様は世界有数の企業で、綿密なマーケティングをされています。お互いにリスペクトしあえる関係だからこそ、良質な情報が集まります。

私自身は営業経験が長かった。技術畑の人間ではないことも、エンジニアの意見を冷静に聞ける理由です。そのことも私の『聞く耳』を育ててきたのだと思います」

河合はいまも年の前半は工場、年の後半は13カ国に約80ある各拠点を回り、多くの社員と会話する機会を持ち続けるようにしている。

それと同時に、グループリーダーのメンバーとも対話を取り続ける。社内では「社長」ではなく、「河合さん」と呼ばれることも多い。現場の良質な情報に触れることで大局を把握する。そこで浮上してきた「課題」が「目的地」への道筋を教えてくれるのだと河合は言う。

「誰だって、成長や発展を考えるのは嬉しいし、ストレスがないことです。課題というものは、ネガティブに捉えられがちですが、私はポジティブに考えます。課題の解決は成長において不可避ですし、成長へのヒントになる。だから私は『成功の反対は失敗だ』とは思っていません。『成功の反対は、何もしないこと』です」

あくまでもポジティブ思考。そんな河合の原点とはなんなのだろうか。「楽しいことを考えるのが好きなんです。明るい性格で、青空が好き。大学では体育会ゴルフ部でしたが、ゴルフでもチームプレーがあります。自分が失敗することもあれば、仲間が失敗することもある。そこで出てきた課題をともに乗り越えることで成長する。そういう経験が、いまもプラスになっているんだと思います」

写真を撮影した際には、海外駐在時のアウトバーンでの運転経験を楽しそうに話していた河合。経営を運転になぞらえて質問すると、柔らかい笑顔でこう言った。

「会社の成長も制限速度なし(笑)。けれども、短期、中期、長期、全部バランスよく考えて目的地を目指します。アクセルは全開だけれども、ブレーキも踏みながら進むことが大事だと思っています」


かわい・としき◎1963年、大阪府生まれ。86年明治大学経営学部卒業、東京エレクトロン入社。2015年代表取締役副社長、最高執行責任者、事業推進統括本部長、事業推進統括本部ビジネスユニット本部長。16年より代表取締役社長・CEO。

文=畠山理仁 写真=ピーター・ステンバー

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