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2016年に社長兼CEOに就任した東原は、会社をバリュープロポジション型にすべく大きな組織改革を行っている。日立は、リーマン・ショック後、「ラストマン」こと川村隆が子会社の整理統合によって巨大組織を効率化させ、カンパニー制を導入してV字回復したことは知られている。

しかし、東原は顧客により近づくために、カンパニー制を刷新。より小さなビジネスユニット制に変え、横串を通すために3層からなる組織構造をつくった。製品をつくる「プロダクト」部門には、産業機器、鉄道車両、自動車部品、家電や材料といったビジネスユニット・子会社群が存在する。

そして、AIやビッグデータ解析といった横串で活用できるデジタル技術をIoTプラットフォーム「Lumada」として提供する「プラットフォーム」部門、顧客に合わせたソリューションを提供する「フロント」部門だ。

「私は新入社員として茨城県の大みか工場に入り、そこでずっと育ってきました。大みか工場には、GO(グレーター大みか)綱領というのがあり、『相手の立場に立って行動しよう』という、私の会社人生のすべてだと思う綱領があるんです。

最近、『Let’s Hitachi!』という動詞を言うようにしています。日立に相談すれば何か解決策が見つかるという第一想起をしてもらいたい。IoT時代のイノベーションのパートナーになり、日立と一緒ならイノベーションを起こせるという期待をもってもらえるよう、お客様のバリューをプロポーズできるようにしていきたい」

生態系に置きかえる発想法

そうすると重要になるのが、会社の3階層のうち、顧客と向き合う「フロント」の人材だろう。顧客の声に耳を澄まして、ともに解決策をつくり上げていくような人材をどう育てていくのか。

東原はその条件をこう説明する。

「社会をどう変え、人々の幸福をどういう形でつくりあげていくかは、テクノロジーだけではできません。自分のエゴで考えると限界があり、エゴを超える考え方、つまり、相手の立場に立って考えられる共感力が必要です。

そして、未来がどうなっていくかを想像できる人であること。それには3つの軸で、物事を考えることです。3つとは、時間軸、地域軸、顧客価値の軸です」

例えば、3年前に電力不足だった地域のエネルギー問題は回復したものの、今度は水不足になっているとしよう。では、3年後にはどうなるのかと考える。過去と現在の時間軸から読み込む力と、その地域と住民(顧客)を考慮しながら、未来を予測することが大事なのだという。

もう一つ、彼は「アナロジー(類似性)で物事を見ることが大事」と言う。「歴史のなかで同じようなことがあったかどうか。社会生活のなかで同じパターンがあるのか。あるいは、生態系や自然のメカニズムで解決されているのか、です。

例えば、一万尾のイワシがぶつからずに群れて棲息しています。なぜか?側線器官という圧力を感じるセンサーをもっているからです。近づくと、『俺はここにいるよ』と知らせるわけです。今後、ドローンの運行管理などに使えるのではないかと、ひとつの動物から類似性によって発想が生まれてくるのだと思います」

東原には、ある習慣があるという。朝の散歩だ。布団のなかで目覚めたとき、ぼんやりとしたアイデアらしきものがある。それを散歩しながら、再構成していると、ヒントが浮かんでくるという。

「なぜこうなっているんだ、みたいなことから、どういうふうにしたら問題解決できるんだと歩きながら考えます。すると、類似性が浮かんだりします。例えば生態系や人体のメカニズムに当てはめて考えるとテクノロジーが生まれるんじゃないか、とね」

大みか工場時代、相模湖駅から東京駅まで1駅ずつ各駅に自動制御のコンピュータを導入するプロジェクトを担ってきた。JR東日本の指導のもと、20年かけて、中央本線、京浜東北線、山手線、常磐線と数百の駅にコンピューターが入り、JR東京圏の世界に誇る正確な運行管理を担うATOSというシステムを完成させた。

OT(オペレーショナルテクノロジー:制御と運用)とIT(把握・分析・予測)のかけ合わせが原体験となり、未来を予測する発想を日々行っているのだろう。

「私自身、会社というのは、社会に何らかの貢献ができるひとつの手段としか思っていません。それを一生懸命やれるのは、そうした経験を通して、自分が成長していると感じるからですよ」


ひがしはら・としあき◎1955年、徳島県生まれ。77年に徳島大学工学部を卒業し、日立製作所に入社。2007年、執行役常務。08年、日立パワー・ヨーロッパ社プレジデントなどを経て、14年4月に日立製作所社長兼COO、16年、社長兼CEOに就任した。

文=フォーブス ジャパン編集部 写真=ピーター・ステンバー

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