前出のストラテジストは、中国が行う融資には本質的に懸念すべき点があると述べている。
「モルディブの前政権は詳細を公表せず、また自国への長期的な影響を考慮せずに、中国から支援を受けることを決めた。戦略上、モルディブと地域が受けることになる影響は、問題が多いものになる」という。つまり、(融資を受けることで)インド洋における中国の存在感が高まるということだ。
一方、インド紙ザ・タイムズ・オブ・インディアによると、モルディブの新政権はこうした状況に対処するため、インドに「寛大な」対応を求めている。ニッケイ・エイジアン・レビューによれば、インドはモルディブの対中債務の返済を支援するため、同国に10億ドルを融資する見通しだ。
だが、モルディブを救済することは、経済的にも地政学的にも、インドに利益をもたらすものではない。中国の狙いはインド洋を「中国洋」に変えることだからだ。そのため中国はモルディブと自由貿易協定を締結し、自国のもう一つの「前哨基地」にしようとしているのだ。
モルディブがインドと中国の両国と自由貿易協定を結ぶ国になったことも、問題を複雑している。中国はモルディブ向けに輸出した自国の製品を、インドに再輸出することができる。
インドは、中国のこうした行動に強い警戒感を示しており、日米やオーストラリアとの海上共同演習を実施するなどしてきた。だが、それにもかかわらず、中国軍の潜水艦は突然、スリランカにあるコロンボ港の南コンテナターミナルに繰り返し姿を見せるようになっている。
中国がインド洋を「中国洋」にできるかどうかは分からない。ただ、モルディブを通じて中国を支援することになるような行動を、インドが取るべきでないことは明らかだ。