有働由美子「私が南スーダン難民取材で感じたこと」

有働由美子


次の悲劇を生まないために

ヘレンの他にも、難民居住区に住む様々な女性に話を聞き、望まぬ妊娠をした人たちの数の多さに驚いた。背景には男性優位の慣習がある。この辺りは一夫多妻制で、一人の女性が6〜7人の子どもを産み育てる。どの町や村でも女性や子どもが大きなタンクを頭や手に持って水運びをするのを見かけた。

現地の人によれば、「男性は戦いに備えているから、女性が日常を支えるために働く」という考えもあるのだとか。国連人権事務所の報告によれば、南スーダンでは一時、資金不足で兵士の給与支給の代わりに略奪やレイプを許可する指示が出て、多くの被害者を生んだ。

私が印象に残ったのは「教育さえ受けていれば」という言葉だ。ほとんどの人は性に関する教育を受けてこなかった。ボーイフレンドと交際して、13歳で妊娠した少女がいた。妊娠を知ったボーイフレンドは責任を取りたくないと逃げ、暴力も振るわれた。教育があればこうはならなかったと彼女は話す。

一方で、性に関する「先進的な活動」も目にした。手縫いの生理用ナプキンを男性も一緒に作る、というワークショップだ。

使い捨てのナプキンが手に入らず、学校で恥ずかしい思いをするのが嫌で不登校になる少女も少なくないという。そのため、再利用できる布製の手作りナプキンの作り方を教えているのだ。

興味深いのは男性や男子学生も一緒に作り、女性の身体や妊娠の仕組みを学ぶ機会になっている点だ。日本人にとっては逆にちょっと抵抗を感じる話かもしれないが、参加している男性たちは真剣だ。参加者の1人は「女性の身体を知り、思いやることができるようになった」と話していた。


カラフルなアフリカンプリントの生理用ナプキン。洗濯して再利用可能だ

今回、実感したのが「難民という名の人はいない」ということだ。一人一人が、同じ命の重さで内戦に翻弄され、生活を奪われ、それぞれの苦しみを抱えていまを生きている。もちろん状況は全然違う。しかし誤解を恐れずに言えば、この旅の2カ月前、東日本大震災の被災地の人々の声を聞いたときに同じ感覚を味わった。

難民も被災地の人も一括りにしたとたんに、それは他人事となる。一括りにすると何か大きなものを見過ごしてしまう。しかし一人一人具体的に見れば、大切なものを失うという共通の体験として、人々は通じ合えるのではないか。

難民、国家間対立、制裁、経済戦争─。言葉を使っていても、実際に起きていることの実感は伴わなかった。現地で直接声を聞いて現実がようやく少し見えるようになったと思う。とはいえ、みなさんに難民キャンプに行ってみてくださいとは言えない。だからこそ私は伝えることの責任を感じている。伝える者として、自ら知ろうとする努力を惜しまずにしたい。

この世界でいま起きていることを、他人事にしてしまわないために。一人一人の思いを伝える報道の仕事に邁進したい。



有働由美子◎1969年、鹿児島県生まれ、神戸女学院大学卒。91年NHKに入局し、ニュース番組やスポーツ番組などを担当し、紅白歌合戦の司会も務めた。2007年から3年間ニューヨーク特派員。10年『あさイチ』のキャスターに就任。18年3月NHK退社。同10月から日本テレビ系『news zero』メインキャスターを務める。

文=有働由美子 写真=金井塚太郎 撮影協力=プラン・インターナショナル

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