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電通総研内のクリエイティブシンクタンクによる連載「NEW CONCEPT採集」

人は誰でも多かれ少なかれ変身願望があります。もっとよく見せたい、すてきな振る舞いがしたいと思って、努力もします。もし誰にでもなれる技術が誕生したら……。

今回は、少し先の未来に起きるかもしれない変身技術と人格の使い分けについて予測します。


私たちは、子供の頃から将来何になりたいかを問われ、アイドルやスーパーマンなど、無邪気に将来の夢を語ります。大人になるにつれ身体能力、性格適性、向き不向きの教科が出てくると、途端に夢から現実へ。やりたいことができれば幸せですが、そうでない場合、密かに思い描く夢を抱えている人もいるかもしれません。

人は、そもそも多面性を持っています。会社ではしっかり者でも、家庭ではぐうたらなど、同じ人とは思えないほど人格が変わることがあります。コミュニティごとで人格が違うばかりか、SNSでは年齢と性別さえも超越することができます。

作家の平野啓一郎さんは、たった一つの「本当の自分」とは存在せず、対人関係ごとに見せる複数の顔が、すべて「本当の自分」だとし、「個人(individual)」は英語の意味でいう分けられない存在ではなく、「分人(dividual)」という分けられる存在だと言っています。複数の人格の使用比率が違うだけで、すべてがその人自身という解釈です。

自分とは違う人格、キャラを演じることは、今に始まったことではありません。その昔、社会への風刺画は匿名で行われていますし、ラジオ番組に凝ったペンネームではがき投稿する時代もありました。SNS時代になると、実名と匿名アカウントを複数運用。最近ではVTuberと呼ばれる3DCGのアバターを操作する動画配信が人気です。

昨年、VTuberのアカウントを開設したねこますさんは、美少女のガワを被った男性Youtuber。男声と可愛いビジュアルのギャップ、コンビニバイトの日常の発信がファンの支持を得ています。生身の肉体ではできない仕草もアバターを通すと、可愛い瞬きや少女らしい動きができるようになります。

文字や絵、音声、そして動画と発信できる情報量が増すことで表現の幅が広がりました。今後、どのような技術で自己表現がされるのでしょうか。今、盛り上がっているのは画面の向こう側、ネット上の自己表現です。現実空間で、なりたい自分を演出する方法を紹介します。

ChameleonMaskは、遠隔にいる人とコミュニケーションする目的でつくられた仮面型のテレプレゼンスシステムです。博士論文のテーマの一つとして筆者が開発しました。これまで人の代わりは、画面上ではアバター、現実環境では機械が行っていましたが、他人(Surrogate)が担うと仮定した時のUIやコミュニケーションについて調べています。

遠隔地にいるユーザは、仮面を通して遠くの人々とコミュニケーションし、Surrogateには仮面内部のモニターでこっそり振る舞いの指示を伝え、身体を伴ったコミュニケーションを実現しています。実験では、仮面を被った人が、その人本人だとみなされるか調べるために、孫が祖母に会いに行ったり、市役所で住民票がとれるか実験を行い、“その人”とみなされる傾向があることがわかりました。

文化人類学では、仮面は中の人物を消失させ、仮面の存在に成り代わる手段と言われています。そして、人にとって顔はインデックスであり、誰であるかを識別する重要な部位です。

文=三澤加奈 イラストレーション=尾黒ケンジ

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