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2018.12.05

世界で評価される22歳 「僕はイエス様が嫌い」監督に聞く、表現としての映画 #NEXT_U30

映画監督 奥山大史


血だらけになりながらフィルムを巻いた

──「Tokyo」が制作された経緯についても教えていただけますか?



「岩井俊二のMOVIEラボ」というEテレの番組があります。若手映像作家が作ってきた短編を映画監督が講評するという内容で、そこで1分間の短編映画をつくりました。それに対して岩井俊二さんと是枝裕和さんがいろいろ話と講評してくださり、せっかくだからこれをベースに、ちゃんと描き切ったものを残しておこうと。

さらに自分の原点である「ふくすけ」に関わった人に出てもらおうと思って、大竹さんにオファーしました。つくりはじめから完成までは2年かかりましたね。

──かなり特殊な制作方法だったようですね。

あの映画は、もう作れないです(笑)。写ルンですで撮影した写真2000枚をつないで映像にしました。映像なのに撮影はフィルムの静止画。大竹さんも、大変だったと思います。顔の角度とか、目線とか、本当に細かくやり直した。あんな撮影方法は普通じゃありえないと思うので。

──映像で撮れば10秒で終わるシーンを、静止画をつないでアニメーションにしたらとんでもなく時間がかかりますよね。メイキング映像では指にばんそうこうを巻いていたように見えましたが…。

よくお気づきですね。親指が血だらけになったんですよ。撮影一日目を終えたら指が見たことのない腫れ方をしていて(笑)。まあ別に大丈夫かとおもって翌日も写ルンですを巻いていたら、割れて血が…。

──執念ですね。

大竹さんはドン引きしていましたね。「大丈夫? 別のひとに代わってもらったら?」って。でも、次々撮るので、人に受けわたすとアングルがずれてしまう。自分でやるしかないんですよ。フィルムで撮ってデジタルで動かすことには勝手にこだわりを持っていました。

これから先、フィルムは少しずつ衰退していくし、デジタルはどんどん進化していく。アナログのフィルムとデジタルのアニメーションがどちらも実用されている今だからこそ、できる表現なんです。大変でしたが、完成後に大竹さんが手紙を送ってくださり、それを読みながら本当に作って良かったなあと思いました。



──これからの展望を教えてほしいです。

映画をつくり続けていたいです。今回受賞してコメントを求められて話したのが「忘れてしまうこと、忘れちゃいけないことを映画に込めていきたい」という内容で、ふとその時に出てきた言葉ですが、大切にしたいと思っています。5年以内の現実的なことなら、「僕はイエス様が嫌い」と「Tokyo 2001/10/21 22:32~22:41」を国内で展開させたい。まだ国内の劇場公開が決まっていないので。

──え、そうなんですか?

東京フィルメックスという映画祭では上映していただきましたが、劇場公開がまだ未定なんです。一方で、海外配給はもう何カ国か決まっています。海外では展開されていくのに、日本での劇場公開がなかなか決まらなくて。普通の邦画とは真逆の状態ですね。

──たくさんの人に届けられるべき映画だと思います。

ありがとうございます。いずれにせよ来年中に公開する予定なので、少しでも大きな規模で劇場公開できるように頑張ります。


おくやま・ひろし◎1996年東京生まれ。初監督長編映画「僕はイエス様が嫌い」が、第66回サン・セバスチャン国際映画祭の最優秀新人監督賞と第29回ストックホルム国際映画祭の最優秀撮影賞を受賞。学生時代に監督した短編映画「Tokyo 2001/10/21 22:32~22:41」(主演:大竹しのぶ)は、第23回釜山国際映画祭に正式出品された。撮影監督としても映画「過ぎていけ、延滞10代」や映画「最期の星」などを撮影する他、GUのTVCM「ROMANTIC TOUCH COLLECTION」やLOFTのWebムービー「好き」などの撮影も担当。


文=長嶋太陽 写真=小田駿一

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